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9.11同時多発テロ事件以来、イスラム関係の本が「汗牛充棟(かんぎゅうじゅうとう)ほども出版された」が、はたしてイスラム教の本質は明らかにされただろうか。ブッシュのアメリカをはじめ欧米社会はイスラムをまったく理解していない。まして宗教音痴の日本人には「一神教の理解など絶望的だ」。この悲しむべき蒙(もう)を啓(ひら)くために、筆を取ったと著者はいう。ユダヤ教、キリスト教、仏教、儒教、神道、そして中国の“歴史教”(著者の言葉)との比較において、イスラム教の本質と優越性を際立たせようとする本である。
まず著者は「今回のアメリカとイスラムとの戦いを『文明の衝突』などと呼ぶ向きもあるが、これはむしろ『宗教の衝突』である」と、暗にサミュエル・ハンチントンを批判する。しかし、残念ながら論理の透明度はハンチントンのほうが高いようだ。
たとえば、タリバンの巨大石仏破壊とイスラム過激派の自爆テロに関する説明はやや乱暴ではないか。石仏破壊は「神の教え」に基づく行為だ。それを理解できなければ「イスラムとの交流」はありえない。イスラム教徒の自爆テロを非難する欧米の常識は「世界の常識」ではない。
中国の大歴史家、司馬遷は史記の「刺客列伝」で暗殺者を「後世に名を残すべき存在」と称揚し「壮士ひとたび去って復た還らず」とうたっているではないか。中国の刺客もイスラムのテロリストも「不変の歴史」「一神教」に殉じた壮士なのだ。
男子たるもの、かく生きるべし。しかるに、ヨーロッパの歴史家は彼らを「歴史の変化に棹さす時代錯誤」の「抵抗勢力」として拒否する…。講釈師風のマッチョな詠嘆調、あるいは横丁のご隠居が該博な知識で長屋の住人を煙に巻く落語調の論理展開は、読んでいて楽しい。著者の言葉遣いをまねるなら、博覧強記で、ところどころ牽強付会だが、「変化に棹さすは、変化に合わせるっていう意味じゃなかったですかい、ご隠居さん」などと、突っ込みを入れる楽しさはある。おもしろい本だ。(伊藤延司)
内容(「MARC」データベースより)
なぜイスラムは欧米を憎み、欧米はイスラムを叩くのか? 日本人ムスリムはなぜ少ないのか? イスラムが分かれば、世界が分かる。稀代の大学者が緊急執筆した日本人必読のイスラム原論。