|
22 of 33 people found the following review helpful:
4.0 out of 5 stars
恐怖に踊らずにはいられない時代だからこそ・・・, 2004/2/29
道路上での暴力行為や性的暴行目的の幼児誘拐、ネット上で蔓延するポルノに麻薬付けの母親、飛行機事故・・・著者グラスナーによれば、メディアによって盛んにとりあげられるこれらのニュースが、事実を過剰に歪曲・誇張し、必要以上に人々を不安に陥れていると指摘する。そして人々は、めったに起こらない、あるいはたいした社会的影響力もない事故や事件を恐れるあまり、真に深刻な問題への対応をおざなりにしていると警告する。 なるほど、これは、アメリカだけのことではない。日本でも「恐怖」が、人の心をつかんで離さない。少年犯罪やテロの脅威が時に扇情的に取り上げられ、それに至る背景や問題の複雑性が、見落とされがちだ。いきおい、十分な議論も分析もないまま、感情的な主張だけが先走りすることになる。 その点で、『アメリカは恐怖に踊る』は、恐怖に踊り・踊らされている私たちにも冷や水を浴びせ、はたと我に返してくれる好著だと言えるだろう。 ただし、本書のメッセージに共感しながらも、9.11テロとその後の混沌とした世界情勢のなかでは、本書のメッセージもどこかよそよそしく響く。 確かに自分の子どもが誘拐され、殺害される確率は非常に低い。しかし、だからといって、自分の身に降りかかれば、運が悪かったで済ますことはできない。また、どんなに確率が低くても、飛行機が人為的ミスで落ちるとすれば、見過ごすことはできないはずだ。 どんなに事故や事件に会う確率が低くても、いざ会ったときのリスクが大きければ、私たちは不安や警戒心を抱かずにはいられないのだ。それが人為的なものであればなおさらだ。 グラスナーの論議は時として、私たちのそんな素朴な感情を、確率論だけで片付けてしまいがちな面がある。「そんなに恐れる必要はない」と言うのはたやすいが、それでもなかなか納得できないのが人情だ。むしろ、めったに起こらないからこそ、自分の身に降りかかってきた場合の悲劇を恐れることもあるだろう。 また、メディアは必要以上に我々に恐怖を植え付けているかもしれないが、一方で、予想されるリスクに対して警鐘を発するという機能もある。何が過剰で何が過剰でないか評価するのは必ずしも容易ではない。 してみると、重要なのは、単に恐怖に踊らされないようにするということではなく、むしろ(難しいかもしれないが)恐怖を直視し、その原因を解消したり、被害を最小に抑えるよう務めていくことではないだろうか?それこそが、冷静な判断や対応を引き出す道でもあるだろう。 恐怖に踊らずにはいられない時代だからこそ、本書のメッセージをもう一歩進めることが求められていると思う。
|