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イラク情勢が緊迫する中、一躍注目を浴びた「ブログ」(インターネット上で公開される、日記のようなもの)があった。サラーム・パックスと名乗るそのブログの主は、彼自身の説明によれば、バグダッドに住む29歳の男性。だが彼は、我々が抱いていた“独裁者に抑圧されたイラク人”像とは大きく異なっていた。欧米の音楽や映画などを奔放に楽しみ、ネット文化を謳歌し、同性愛者であることを隠さず、言いたいことをウィットに富んだ物言いで表現するすべを知っている聡明な青年だったのだ。そんな彼のブログを、2002年9月から、米英のイラク攻撃を経た2003年6月分まで収録したのが本書である。
サラームは、ブッシュの偽善的な理由による爆撃行為を非難する一方で、フセインとその一族に対しても皮肉混じりに批判を述べる。イラクという国とイラクにとっての他国を、当事者側の視点から見ることのできるユニークな読み物だが、何よりも彼の存在自体が“非アラブ世界”の住人にとってはあまりにオルタナティブで衝撃的だ(ゆえに多くの人がその実在を疑ったが、本書は、間違いなく実在するという立場で出版されている)。
戦争についてのドキュメンタリーという読み方もできる。バグダッドが直接攻撃にさらされる2003年3月以降の記述は、緊迫しながらも日常生活の描写も多く、戦争が日常の延長線上にあることを教えるかのよう。また、ネットが一市民にもたらすパワーの具現化を目の当たりにするという意味でも、本書の示唆するところは大きい。口語調の平易な文章の中に、現代社会を読み解くのに必要なキーワードが詰まっている。(安川正吾)
出版社/著者からの内容紹介
二十一世紀の「アンネの日記」待望の邦訳
「今朝はインターネットが通じない。昨日の夜も駄目だった。そしてたった今(午後零時二十一分)、爆撃音が響いた。空襲警報も何もない。ただ一発ドカーンと」
……2003年3月25日火曜日
アメリカ軍の攻撃にさらされ、破壊されていくバグダッドに暮らすあるイラク青年。彼がサラーム・パックスという名でインターネット上に綴る日記に世界中からアクセスが殺到した。
ブッシュ、フセイン、国連、アル=カーイダ、空爆、連合軍、奪略、占領下での生活……29歳のイラク青年の日記には、すべてがリアルな素顔をさらけだす。
ときに辛辣に、ときに感傷的に、ときにユーモアを交えて綴られる日記は、現在もバグダッドから発信されている。
まだ戦争は終わっていない。