特に強い印象を残すのは、「田辺のつる」(1980年)だ。老いて、気持ちが少女時代に戻ってしまった82歳の老女「田辺つる」を、高野はかわいらしいおかっぱ頭の少女の姿で描いてみせる。孫の部屋から追い出され、ドアの向こうから「こわいのー あけてー」と舌足らずな調子で許しを乞ううち、突然「あなた はやまったことしないでください 私達どうしたらいいんですか」「あけてください!」と不穏なセリフを放つ、つる。このシーンには閉じられたドアとセリフだけでつるの姿は描かれてはおらず、読者の頭には82年という重みを持った老女の存在が、ふいに生々しく浮かび上がる。
意外な場面を意外なアングルから切り取った独特の構図は、初期作品から見ることができる。人物などの絵柄は少女漫画風に細かく描きこまれたものと、少ない線ですっきりと描かれたものとが混在しており、作品ごとに印象は大きく異なる。高野作品のスタイルが確立される前の試行錯誤の様子がわかる、貴重な短編集だ。(門倉紫麻)
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