著者の耳は、小学校4年生のころから徐々に聴力をなくしていったという。聞こえる「ふり」をしながらの小学校生活、面接者の質問が聞き取れず苦い思いをした高校受験。自分が「障害者」と呼ばれることへの戸惑い。序盤では、他人と違うことに対して不安と恐怖を感じていた少女時代の記憶が赤裸々に語られる。そんな著者の転機となったのは、聴覚障害者コースを設置する筑波技術短期大学への進学だった。著者はそこで、聴力だけに頼らない、多様なコミュニケーションの方法があることに気づくのである。
その後を語る著者の筆致は一転して、はつらつとして明るい。なかでも、手話を通して繰り広げられる幼い我が子とのふれあいは、じつに微笑ましい。また、誰もが使用可能な「ユニバーサルデザイン」の思想や大切さが説かれている点も見逃せない。バリアフリーの意識の高まりや、IT(情報技術)分野の劇的な進歩などにより、障害者が多方面で活躍することのできるようになってきた現代社会。しかし一方で、障害者と健常者との間には、多くの隔たりが存在するのも現実だ。「聞こえない世界の素晴らしさ」も知っていると力強く断言する著者からの問いかけは、障害を乗り越えて、読み手の心までしっかりと響いてくる。(中島正敏)
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