読者に言いたいことを伝える「文学」の作者とは異なり、ミステリーの作者は「読者の興味を引きつけて離さない」ことが大切であると、イギリスのミステリー作家である著者キーティングは言いきる。一般には純文学のほうが高尚と思われがちだ。だが著者が冒頭で述べているように、「苦労の絶えないこの世の中に、あくまでもおもしろいエンターテインメントを供給することは、なかなか立派な仕事」なのだ。
エンターテイメントの創作には、職人的なテクニックがものを言う。キーティングは、自分や他の作家の例を豊富に挙げながら、読者を引きつける技術を惜しげなく披露する。主人公の描写のしかた、名前のつけ方、プロットの作り方、章立てのしかた、最初の1行の書き方など、役に立つコツがちりばめられている。
さらにミステリーに必要な要素(探偵、容疑者、手がかり、殺人など)、ミステリのパターン(ストーリーの形式から、ヒーローのタイプ、ユーモア、恋愛、歴史をプラスしたバリエーション)を巧みに整理しつつ、わかりやすく解説しており、欧米ミステリーの歴史と広がりを概観するうえでも貴重なガイドブックだ。作家志望者はもちろん、翻訳ミステリ愛好家にも一読をすすめたい。(栗原紀子)
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