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本書は著者が、中国、北京の天壇公園を65年振りに訪れるところから始まる。6歳のころにここで、湾曲した壁に音が跳ね返って不思議な反響が起こる体験をするのだが、それが、著者が音の響きに関心を持ったきっかけだという。響きに対して微細な注意を払うことにより、戦時中は戦闘機の音を聞き分け、また、作曲家として歩み始めた後も、NHKラジオ、テレビの仕事をする中で、その姿勢は一貫していた。そして、電子楽器のモーグシンセサイザーとの出あいで、そのこだわりは加速する。孤独な手作業を経て出来上がった最初の作品「月の光」は世界的なヒットとなる。その後サウンドクラウドという音楽以上に音響の色合いが濃い、リンツの野外コンサートをはじめとした野外イベントに参加し、成功を収める。
著者は一般的には、テレビ大河ドラマの作曲者として、電子楽器のシンセサイザーの日本における第一人者として、また、立体音響のサウンドクラウドといわれる野外コンサートの企画者として知られているが、作曲家または演奏家、プロデューサーといった狭いくくりにおさまりきらない多才な人物であることが、まざまざと感じられる1冊である。
音の響きに対するこだわりに貫かれたこの自叙伝には、別の意味でのこだわりも感じられる。それは、巧みで繊細な文章による情景描写のリアリティーである。幼いころ目にした情景や体験したことがらの一つひとつを読者にリアルに伝える、秀逸な書に仕上がっている。(桜田清二)
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