1941年,大阪に生まれた筆者の20代はそのまま激動の1960年代に重なる。この講義では,そうした時代を文明史的な視点から振り返る一方で,15歳で自宅の増築を手がけて建築の世界に目を開いたこと,F・L・ライトの帝国ホテルの空間に衝撃を受けたこと,正規の建築教育を受けることなくモダニズムのリーダーになったル・コルビュジエの生き方に自らの境遇を重ねて勇気づけられたこと,そして,日本全国を手始めに世界中を駆け巡った建築巡礼の旅から学んだことなど,無名の若者が大きく揺れ動く時代の下でいかにして建築家を目指すに至ったか,が率直な言葉で語られている。そこには,また,同時代の前衛芸術家に触発される中から,既存の枠組みに果敢に挑戦していく筆者の基本姿勢が形づくられたことも明らかにされていて興味深い。
こうして,筆者は,自分史を織り混ぜながら,1976年のデビュー作「住吉の長屋」から最新作の「淡路夢舞台」まで,その四半世紀に及ぶ活動から生み出された作品の創作プロセスとそこに込められた思いを披露していく。
中でも圧巻なのは,それらプロジェクトの大半が,実は,当初の計画にはなかったものの実現であるという点だ。そこには,与えられた条件を自由に読み替えて構想をふくらます腕力と,それに裏打ちされたドローイングの表現力があったに違いない。
おそらく,建築家とは,かくも大胆に建築的イメージを飛翔させ,ときには現実すらも動かしてしまう粘り強い精神の持ち主なのか,と驚かされることだろう。彼はこう述べている。
「建築は社会的,法的規制からは逃げられません。しかし,その建築においても何を第一に優先させるかと問われたら,私は考える自由をもち続けることと答えたい」ここには,建築を考えることの難しさと喜びとが同時に語られている。本書から受け取れる最大のメッセージだと思う。
けれども,一方で,その明快な語り口に一抹の不安が残ってしまうのも事実だ。筆者の示す建築家像のかっこよさには憧れつつも,社会が急速に作り続ける力,前進する勢いを失い,どこかにいやしさえ求め始めている中で,はたして建築だけがこの先どこまで元気でいられるのか。あるいは,阪神・淡路大震災でも明らかになったように,筆者が常に闘い挑戦してきた都市が,むしろ心のよりどころでもあり,守り慈しむ対象でもあったと見直されつつあるとき,建築の作り方はどう変わるのか。それへの回答は,筆者への期待を超え,現在の建築の大きなテーマそのものであるに違いない。 (京都工芸繊維大学 工芸学部造形工学科 助教授 松隈 洋)
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