何者かに導かれつつ書き進んだと著者は語る。扱う物語はまるで本歌取り、登場する語り部も偶然から出会い松明たいまつを受け渡してきた人々で、ここに著者の手で活字に定着されるまで、ストーリーは1本の糸で織られでもしていたかと思わせる。
湾岸戦争後中東に赴いた海上自衛隊の知られざる活動を描く本書大団円は、NHKの人気番組「プロジェクトX」数回分の感動を呼ぶと言ったらいいだろうか。この挿話には伏線がある。朝鮮戦時米軍の要請で出動した日本掃海部隊を巡る話がそれである。
封印されてきた史実を闇から発掘した米国海軍将校が、本書の狂言回しである。後、昭和天皇が井上成美に贈ったカフスボタンを身につけ米国政府勲章授与式に臨むこととなるこの男が見いだしたものこそ本書の主題で、それは熾烈に戦い合った男たちを結ぶ「海の友情」、背筋を伸ばした人同士をつないだ畏敬の念にほかならない。
戦後まだ10年と経ない頃、海上自衛隊の創設からその初期にかけての時期に日米双方でどんな人間同士の交流があったか、著者はくだんの米国人将校に導かれつつ初めて明らかにした。それは激しい敵意を敬意に変えていく改心のドラマである。
米国の首都に立つ硫黄島メモリアルを見、「あのゲッソリと頬の肉を落とした海兵隊の兵士たちの顔にはっとし、それから急に涙が流れてきた」旧日本海軍軍人がいた。像は勝者の凱歌でなく戦いの哀歌を低い声で謳うものだと悟って、この人・内田一臣海上幕僚長の改心は始まる。
内田やその同僚はまた、戦後の日本にわだかまりを抱いて訪れた米国海軍将校たちを深く感化する。こうして、日米関係を根元で支える無名の人々の強固な交流が生まれた。
畏敬の念で結ばれた関係は強い。逆に、苦痛を伴う改革を避けてばかりきた昨今の日本人に、米国人(であれ誰であれ)は頭を垂れるに値する人間像を見いだせまい。両国関係の悪化・希釈化はそこに根因がある。と、そんなことを本書は語っていない。しかしおのずと考えさせる力を持つ。
海の守りにつく男たちの友情を通じてあるべき日本人の姿とは、日米関係とは何か、静かに描破した本だ。作家・阿川弘之氏を持たなければ日本人は旧海軍について無知なまま過ぎただろう。今その息子を得て、知らずに済んではあまりに惜しかっただろう戦後日米の友情がこうして後世に残るのだとは、本書の出現自体因縁めいている。
(日経ビジネス編集委員 谷口 智彦)
(日経ビジネス 2001/05/07 Copyright©2000 ブックレビュー社.All rights reserved.)
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