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パリの左岸にあるひっそりとした裏通りに、そのピアノ工房はある。本書は、パリに住み着いたアメリカ人の著者が、この店の扉をノックし、ピアノという楽器の深遠な世界に入り込んでいくさまをつぶさに描いている。ショパンの好んだプレイエルや豪華なスタインウェイなど、古今東西の名器がこの工房に集まり、再生されていく。ピアノをまるで生き物のように扱う職人との交流を軸に、ピアノの魅力をあますところなく描いている。
本書はピアノの専門書ではない。しかし、「震えるようなひびきがいつまでも空中にただよい、次々とひびきを重ねても音色が曖昧になったり濁ったりはしなかった(ファッツィオーリの音色)」というような、個性的なピアノの音に関する表現が非常に魅力的だ。また、自分だけのピアノに巡り会ったときの喜びは、ピアノ好きならぞくぞくするような感覚として実感できるに違いない。20年ぶりにピアノを手に入れた著者と共に、ピアノの起源から近代のピアノが成立するまでの歴史を旅し、ピアノの内部をのぞいたり、有名なピアノ教師によるワークショップに参加したりといった疑似体験を得ることができるのが、この本の魅力といえよう。
本書には、ピアノだけではなく、忘れられないキャラクターもたくさん登場する。アル中の凄腕調律師、子どものころ出会ったピアノの先生、著者の子どもが通うことになる音楽学校の校長など、その後が気になる人物ばかりである。
著者は、幼いころ感じた発表会の恐怖について回想しているが、その感覚に覚えのある人も多いに違いない。大人になってスパルタレッスンから解放された今、この本を読むと、再びピアノのふたを開けてみたい衝動に駆られる。(朝倉真弓)
内容(「BOOK」データベースより)
記憶の庭から甦る、あの音。鍵盤の感触。どこでピアノのことを忘れてしまったのだろう?愛情溢れるパリの職人に導かれ、音楽の歓びを取り戻した著者が贈る、切なくも心温まる傑作ノンフィクション。
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