物語の幕開けは1951年、ニューヨーク・ジャイアンツとドジャーズの優勝をかけたペナントレース。その日はアメリカ中が歓喜と興奮に満ちあふれた日であり、またソ連が核実験に成功した冷戦史における重要な日でもあった。
第2次世界大戦後、世界のリーダーとして君臨してきたアメリカは羨望の的だった。その栄華と表裏一体となる陰影の部分を、著者はゴミ処理ブローカーや核実験研究員などを通してじっくりと描き出している。
陰影の部分とは、常に隠されてきたタブーであり、また人々もそれに目を背けてきた。だが、そうした「暗」の部分は「噂(うわさ)」となって浮遊している。たとえば、核廃棄物を乗せ、どこからも入国許可がもらえずに海洋を徘徊する船の話。放射能防止チョッキを着せられ、実験台にさせられている豚の群の話。ネバダ州の実験場のそばにある農村に住むありとあらゆる身体障害を持つ人々の話。
真実か嘘か確かめられない登場人物たちは、そうした噂を「あり得る話」だと判断する。だが、一方では、テレビで繰り返し放映される本物の殺人シーンを真剣に受け止めることができないでいる。そうして彼らは現実と虚構の間をさまよいながら、自分にとっての「現実」とは何かを模索していく。
本書で語られている内容の重さに立ち向かううちに、読み手はさまざまな角度から現実に向きあう機会を得る。デリーロはドキュメンタリーやニュース以上に、現実について読者を敏感にさせる見事なフィクションを作り出した。(松本芹香)
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