|
25 人中、23人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
自分をわかってもらった気がしてしまう不思議本, 2002/11/16
無茶苦茶良かった。 この話には二人の主人公がいる。授業中いつも落書きばかりしている木島悟16歳。そして、漫画家の叔父とおるちゃんにしか心を許さない気難しい少女、村田みのり16歳。 作品は、連作短編を積み重ねた長編。最初の2編は小学生の木島の別れた父との一夜と、中学生だったみのりの友人とのいさかいの話だ。だが、後は高校生のふたりを描くものだ。 悟やみのりの揺れ動く気持ち。どう言ったらいいのか分からない気持ち。これが、類型化じゃなくて悟やみのりにしかない気持ちの揺れ、彼らにしかない行動で描かれる。読んでいると大人の読者の私は消えて悟になり、みのりになる。実際、娘にこの本を薦めるときに、「どうも・・・このみのりって子がね、おかあさんに似てる気がしたんだ」なんて言ってしまった。本当は全然違うかもしれない。 この本を読んで何回泣いたかわからない。いわゆる泣くトコじゃないとこだったようにも思う。なのに佐藤多佳子の微細な視線でみた彼らの気持ちがシミルのだ。 落書き男の悟が、みのりだけはどうも描きにくいと言う。その人の本質に近いような部分を凝縮した「いやあな感じ」に似てる人物画を描くという木島にそう言わせるみのりは、確かに変わってる。 <i>「村田さんの似顔は描けねえかもな」 「すげえむずかしいんだよ。顔じゃなくてさ。人間の感じがさ」</i> その「むずかしさ」ってヤツが、悟にもあるんだと思う。 あるいは人には誰でも、そういったむずかしい部分があるのかもしれない。 一口にいえない。けれど、譲ることのできない解りにくい自分の核が。 この本は、見えない読者の「それ」をごく自然な形で認めてくれる。それでいいと言ってくれる。私は、きっとそこが好きだったんだと思う。 爽快で希望に満ちたラストを読み終えて、自分が迷っていたことも、なんとなく吹っ切れた気がした。全然ストーリーとは関係のない悩みだったのに。なぜだか誰にも、自分を信じさせてくれるオマジナイがかかるような本でした。
|