挑戦すべき夢を見失うな
――約30年前に日本を出て以来、仏ルノーやエア・リキードなど欧州企業を渡り歩いてきた今北さんに、今の日本企業の現状はどう映りますか。
環境は厳しいでしょうが、それにしても最近の日本企業は考えを極端に変えすぎます。例えば、米国型経営を1年前まで礼賛していたと思えば、今では「米国モデルは危険」とすっかり否定する。これほど簡単に考えが180度振れる国は日本だけです。自分の頭で考える努力をしていないのでしょう。
――思考停止から脱却するカギはあるのでしょうか。
本書のタイトルにもありますが、ずばりミッションを確立することです。私の定義では、ミッションとは企業が挑戦すべき夢や目標を指します。今の日本企業はこれを見失っているばかりに、最大の資産である人材を生かしきれていません。それに対して、見習うべき点があるのが欧州での事例です。
例えば、日本の郵便貯金に当たる英ナショナル・セービングスは、1996年に国から分離独立しましたが、そのミッションは「国民の税負担を減らす」と、極めて明解です。民間と競合しない金融商品を開発して、その収益で国債を引き受けて国民の税負担の削減に貢献する。実現は難しくても思わず挑戦したくなる。誰もが良さを簡単にイメージできる。これこそ、真のミッションです。ところが、日本で民営化と言えば、今でも「官ができないことを民に任せる」といった議論が中心で、これではミッションが立てられるはずはありません。まだ、試行錯誤の段階とはいえ、ミッション経営を推し進めようとしている欧州企業に学ぶべき点は多いはずです。
――ミッションを遂行するコツは。
昔のトヨタ自動車やホンダが掲げた「国産初の自動車メーカーになる」というような誰にも分かるミッションは、今の成熟した時代には成立しにくい。さらに、多種多様なステークホルダー(利害関係者)がいて、彼らが求める期待も異なる。その中で、経営者に勧めたいのは、自分の立てたミッションと各ステークホルダーとの関係を把握する「ステークホルダーマッピング」という作業です。大切にするステークホルダーの優先順位を整理して把握することで、次の具体的な戦略が立てやすくなります。
その意味では、最近、日本企業で盛んに取り組まれているIR(投資家向け広報)活動も不十分です。投資家の期待とミッションに大きな隔たりがあるにもかかわらず、投資家に迎合するだけで、戦略的に行動する意思が見えない。ミッションの達成には、自分の夢を共有してくれる株主を新たに探し出すといった努力も必要です。
――今北さんから見て、日本企業の中で優れたミッション経営に取り組んでいる会社はありますか。
やはりトヨタでしょう。トヨタの欧州展開はミッション経営と呼ぶにふさわしい挑戦だと思います。なぜなら、今までの欧州に進出して1台でも多く車を売るという段階から、欧州のプレーヤーになりきろうと試行錯誤していると感じたからです。
極めて難しい挑戦ですが、同時に大きな夢もあります。仏プジョー・シトロエン・グループとの小型車の共同開発・生産をはじめとして、販売やブランド戦略なども最初から作り上げていく必要がある。私がもし欧州トヨタの人間なら、米国メーカーもまだ成功していない欧州メーカーになる目標を旗印に引っ張っていきたいですね。
( 富岡修)
(日経ビジネス 2002/10/28 Copyright©2001 日経BP企画..All rights reserved.)
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