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羆嵐 (新潮文庫)
 
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羆嵐 (新潮文庫) (文庫)

吉村 昭 (著)
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5つ星のうち 5.0 血も凍る恐ろしさ, 2002/3/21
 これはホラー小説ではない。しかし、恐ろしさにおいて、この小説を上回るものに、私はまだお目にかかっていない。
 大正4年に、北海道北部の苫前町から奥地に入った六線沢という開拓部落で、実際に起こった、羆(ヒグマ)による男女6人殺害の記録である。

 冬ごもりする穴を見つけられずに彷徨する羆を「穴持たず」といい、そのような羆は、雪中に餌を求め凶暴になる。羆は、まず島川宅を襲い、妻と子どもを殺害、妻の遺体を持ち去る。そして通夜の席にまで現れる。集落の者は恐怖の夜を過ごし、警察、軍隊までも出動を要請される。

 最後は、銀四郎という老練な熊撃ちと羆のたたかいになるのだが、吉村昭はこの凄惨な事件を、順を追って淡々と書き記す。その筆致が、読む者をも六線沢の現場に居合わせたような臨場感に引き込むのである。

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26 人中、24人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0 単なるドキュメンタリーを超えた『小説』, 2006/4/5
大正4年12月、冬眠の時期を逸した一頭の羆(ヒグマ)が僅か2日の間に6人の男女を殺害した。この北海道の開拓村で起こった日本獣害史上最大の惨劇を描いたドキュメンタリー作品である。(羆は日本最大の肉食類であり最大500キロにもなる日本では北海道にしか生息しないクマである)。

当然、凄惨なシーンも描かれているのだが、そこは著者の作品である。抑えた筆致で書かれている。しかし、その淡々とした文章がより一層この事件の恐ろしさを際立たせている。

初めてこの作品を読んだときには、その恐ろしさだけが先にたったのだが、何回も読むうちに、この作品が「羆」という自分達の力ではどうにもならない脅威に遭遇したときの村人達の心の動きと行動、圧倒的な力を前にした「集団」の無力な姿が見事に描かれた「集団劇」ではないかという気がしてならなくなった。そして、この「集団」の無力さは、羆を最後に射殺したのが一人の猟師であることで一層強調されている。

凄惨さだけでなく、こういったことが丁寧に描かれている点が、この作品が単なるドキュメンタリーの範疇を超え、優れた「小説」となっている理由なのであろう。と偉そうなことを言っても、自分が同じ立場になったら村人達の同じなんだろうなぁとは思うのだが…。

私は生まれも育ちも北海道である。祖父母が暮らしていたのは幌加内という山間地であり、父の転勤そして自身の転勤によって40年近く全道を転々としている。20年以上前、この事件の現場も訪れたこともある(既に無人の地ではあるが)。解説の倉本聰氏も触れているが、淡々とした記述の中に厳しさや凄みが感じられる著者の自然描写は素晴らしい。著者のことである。現地に何度も足を運んだに違いない。
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28 人中、24人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0 事実が持つ怖さ, 2006/7/10
By ベック - レビューをすべて見る
(TOP 1000 REVIEWER)   
日本は獣害というものには、さほど縁のない国だと思っていた。
命にかかわる獣害なんて、猛獣の少ない日本にはあまりないもんだと思っていた。でも、そんな猛獣の少ない日本で最大の脅威なのはやはり熊なのだ。
300キロや500キロもあるやつに襲われれば、ちっぽけな人間なんてひとたまりもない。大正のはじめ、北海道の開拓村に入植していた人たちを襲ったのがこの熊なのである。
動物園で見れば、いつも寝てばかりいるウドの大木みたいなやつだが、こいつが暴れるとハリケーン並みの被害が出る。今みたいな警察や軍隊(自衛隊)の機動力のない時代に、夜となれば世界が闇に沈んでしまう恐怖の中でこんなデカイ羆に襲われれば、その怖さは言語に絶するだろう。
だが、この羆を仕留めたのもたった一人のちっぽけな人間なのである。
そこには人智を越えた力が感じられる。現代では、もう人間が忘れかけている自然の力だ。言いかえれば地球の力。また言いかえれば動物の力である。新しいものを求め続けるだけではなく、ちょっと振り返って人間自身の力を見直すことも大切なのではないだろうか?そんな見当ハズレな感想を抱いてしまった。
とにもかくにも、本書は黎明期の北海道において日本獣害史上最大の惨劇といわれる苫前羆事件を描いた傑作である。どうぞ、その迫真の描写に戦慄してください。
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