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天人五衰 (新潮文庫―豊饒の海)
 
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天人五衰 (新潮文庫―豊饒の海) (文庫)

三島 由紀夫 (著)
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5つ星のうち 5.0 虚無の海へ続く桟橋, 2006/11/20
 本作品は昭和45年8月に結末のみ先に書かれ、11月25日に結末に至るまでの部分が編集者に渡されたとのことです。
「豊饒の海」という題名は第一巻巻末にあるように「豊かの海」とも訳されるラテン語の「Mare F(o)ecunditatis」の邦訳。「月のカラカラな嘘の海を暗示」し、宇宙的虚無感と豊かな海のイメージをダブらせているそうです。
 作者は日本文学研究者ドナルド・キーン氏に自分の死後「豊饒の海」全四巻の翻訳がなされるよう尽力を頼み、「そうすれば世界のどこかから、きっと小生というものをわかってくれる読者が現れると信じます」と言っています。

 賛否両論ある結末を持つ作品ですが、「豊饒の海」全四巻を一気呵成に読まれることをお薦めします。特に第一巻の門跡の法話や第三巻前半を良く頭に入れることが必要だと思います。
 私もこの衝撃的な傑作について、少しでも本質に迫るために何度でも読み直したいと感じました。なお、僭越ながら現在の個人的感想を言わせていただくと、物語性が最後に否定されようと、主題をもって深く心を抉る作品でありました。全四巻に渡り、人間というものが過剰なまでに克明に、そして鮮やかに描かれ、それが結末との対比を醸し出すのではないかと思いました。
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15 人中、12人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0 飽くなき生への執着, 2006/2/22
私はこの4部作を通して感じたのは日本人としての凛とした存在感、そして刹那を生きることの大切さ、老いることの恐さ。人間としての理想とエゴを最大限に表現し、三島ならではの華麗なる文体で綴った偉大なる金字塔、日本が誇る偉大なる文学作品だと思います。この作品を脱稿した直後(といっていいくらい)、例の事件でこの世を去るわけですが、天人五衰の後半のスピード感は確かにあっけないくらいに話が進む。本当に死に急いでいたのか、あるいはこれも三島の意図だったのか。永遠の謎ではある。45歳の今、大学時代に読んだこの4部作を読み返し、当時とは全く違った印象で読み終えた。春の雪の終焉とリンクするような第4部の終焉は恐らく初めから意図されていたものだとは思うが、私は何故か泣けてしまった。人間にとって死とは恐いもの、反面、生きることもある意味恐い。その裏腹、その矛盾、難しい宗教解釈は容易には理解できないが、老いを実感した時に、もう一度読み返したい作品だと、私はそう思えた。
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21 人中、16人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0 戦慄の書, 2007/2/5
戦慄の書。日本語を用いて記された物語としては『源氏物語』にも比肩する、圧倒的に美しく、完成された作品。

『豊饒の海』四部作の最終作で、三島が著した最後の作品としても知られる。
『春の雪』の松枝清顕、『奔馬』の飯沼勲、『暁の寺』の月光姫として、六十年の長きにわたり「転生」を繰り返してきた「天人」安永(本多)透に、天人としての死が宣告される。そして、松枝の友人として、転生を目撃してきた「見者」本多繁邦は、自らが見てきた一切のもの、自らの生そのものが迷妄であったことを悟る。

この書にあって、圧倒的な存在感を示すのは本多繁邦、久松慶子、そして月修寺門跡(綾倉聡子)などの「闊歩する老人」である。
本多は、世界のありとある知を極めた大顕学でありながら、自らの夢「真実」に生きる。
それに対し久松は青い血の流れる大貴族で、その血の尊貴ゆえに、世界の一切を嘲笑する「暴悪大笑面」にも似た底知れぬ力を備えている。
綾倉は、至高の美しさ、有頂天にあるものとして本多の夢の結実でありながら、空の理法「四大元空」を、自ら示すことで本多の夢を粉微塵に砕く。
彼ら闊歩する老人の思想あるいは生き様の衝突はまさに荘厳たる「神々の争い」とも形容すべきで、彼らの前にあっては天人、安永透の存在感などは希薄そのものである。

私は、「天使殺し」久松慶子が安永透に言い放った言葉を決して忘れることはないだろう。時空を超えて、人間の心を震撼させる言葉である。

「あなたは歴史に例外があると思つた。例外なんてありませんよ。人間に例外があると思つた。例外なんてありませんよ。
この世には幸福の特権がないように、不幸の特権もないの。悲劇もなければ、天才もゐません。あなたの確信と夢の根拠は全部不合理なんです。
もしこの世に生まれつき別格で、特別に美しかつたり、特別に悪だつたり、さういふことがあれば、自然が見のがしにしておきません。そんな存在は根絶やしにして、人間にとつての手きびしい教訓にし、誰一人人間は『選ばれて』なんかこの世に生まれて来はしない、といふことを人間の頭に叩き込んでくれる筈ですわ。」
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