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奔馬 (新潮文庫―豊饒の海)
 
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奔馬 (新潮文庫―豊饒の海) (ペーパーバック)

三島 由紀夫 (著)
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5つ星のうち 5.0 陛下と言う「美」に突っ走った少年の夭折, 2007/7/27
西洋における「主」(キリスト教の神)の様なものを、
日本の三島は「天皇」に求めた、と言う説がある。
信仰というよりも、崇拝の対象、全的に自分を捧げられる何かとして。

『春の雪』の清顕の転生である勲は、
まさに中世西洋の純朴な少年基教僧の「主」に対するが如く、ひたすらに、
「陛下」に憧れ、「陛下」のために死ぬことを夢見る少年剣士として登場する。

そして注目したいのは、この作品で三島が勲に使わせている「陛下」と言う言葉。

例の、三島的な、いわば人間としての「陛下」ではなく、
神の代理、美の象徴、絶対的奉仕(という美)の対象としての「陛下」であって、
勲はあくまで「陛下」と言う「美」に突っ走って夭折する。
まさに、日本精神の象徴としての「陛下」に憧れ、
(詩人の、芸術家の、武士の)夭折に憧れた三島の、
或る意味では、分身とも言える少年であり、
読んでいて、実に激しい、痛々しささえ伝わってくる凄まじい作品である。

後半生の三島は「美」を振り回すことや、自己のかつての詩人性を恥じたと言う。
しかし、遂に三島は、その数々の小説作品でも、エッセイでも、対談でも、死ぬまで、
「美」を振り回さずにはいられなかった人であり、その文体・表現の美しさ、
言葉の選択のシビアさ・的確さは、彼の枯れることない詩藻・詩人性から横溢したものであったろう。

あらゆる意味で「三島的」なこの作品を、
多くの三島ファン、文学ファンにおススメしたい。
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12 人中、9人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0 躍動感と緊張感のある文体, 2006/1/4
豊饒の海の第2作。
春の雪の貴族的、雅流の世界とは違って野性的な匂いのする作品です。
舞台も戦前〜戦後の混乱期が舞台だからでしょうが。

「純粋」を求める青年が前作、無念の死を迎えた清顕の転生。
作中の描写にもありように。清顕とはまるで反対のような自分。
反対というよりは裏側みたいに感じましたが。

非常に政治色も強く皇国思想や生死感などを青年の真っ直ぐな
性格を反映して打ち出しています。
後に迎える作者の最後を考えるとやはり作中の中の主人公は三島自信と
かぶるトコロが多いのではないでしょうか?

そしてやはり春の雪でも感じたのですが女性はやはりしたたたですね・・鬼頭中将の令嬢。。

「純粋さ」を求める青年が。しかし「純粋さ」なだけでは何もできず
自分の周りを取り囲む「決して純粋ではない」人間や環境の中でしか
自分が生きていなかった時にやはり彼には「死」しかなかったのでは
ないでしょうか?作品最後の「目を〜・・・」に欲しいものは手に入らないモノ的な三島さんの美学を感じました。

ちっちゃなトコロでは春の雪で登場した宮様や華族の皆さんのその後も
ちょっと解って。それはそれでオモシロいですね。
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2 人中、2人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0 最晩年期の最高傑作, 2009/6/20
『春の雪』の手弱女ぶりから一転しての益荒男ぶりである。
積もることのないはかない春の雪に対して、荒々しいまでの奔馬。
前作で、清顕が眺めるばかりであった剣の道に励む男たち。
本作はその、『同化できない』と眺められていた男が主人公である。
’豊饒の海’は四季を表しており、勲はまさしく夏にふさわしい若者だ。

後半で、本多が判事の仕事について思いを巡らせる箇所などは
裁判員制度が始まる現在、もっと人口に膾炙すべき名文である。
新潮文庫P.383の後ろ6行目〜3行目。
もし自分が裁判員に当たった時、この4行を肝に銘じて臨みたいと思っている。

この煮えたぎる熱を持つ小説中、一か所だけ冷水を浴びせかけられたのようにぞっとした
箇所が、軍人下宿を営んでいた北崎老人の法廷での証言の所であった。
読んでいて非常に怖かった・・・。

この本が書かれてから40年が経とうとしているが、三島由紀夫の血潮、
その熱が身に降りかかってくるかのようである。
何回も読みこみ、時を経てまた読みふけり・・・。
一生つきあっていきたい作家である。


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