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「絶対音感」とは、ある音を聞いたときに、ほかの音と比べなくてもラやドといった音名が瞬時にわかる能力である。これがあると、一度曲を聴いただけで楽器を弾いたり楽譜に書いたりでき、小鳥のさえずりや救急車のサイレンの音程がわかったりもする。過去の偉大な音楽家のベートーベンやモーツァルトにはあったとされ、一般人に計り知れない能力として、天才音楽家の条件のように言われることが多い。
しかし、「そもそも曖昧であるはずの人間の感覚が“絶対”とは何なのか。そんな疑問と語感の強さに引かれ、翌日辞典を開いたその瞬間にはもう、その言葉のとらわれの身」となり、著者は絶対音感という神話を解き明かそうと試みる。五嶋みどり、千住真理子、矢野顕子、大西順子、笈田敏夫ら絶対音感をもつ音楽家を取材し、その特異な世界を紹介しつつ、脳科学や神経科学の専門家たちにあたって分析を試みる。音楽と科学の間を行き交いながら、絶対音感にも仮性と真性があるなど、「絶対音感=万能」という安易な幻想と誤解を一枚一枚引きはがしてゆく。
過剰な表現や構成力の不足はあるものの、本書は第4回「週刊ポスト」「SAPIO」21世紀国際ノンフィクション大賞を受賞し、著者の出世作となった。裏を返せば、それだけこのテーマがおもしろい証拠だろう。一般人とは無縁の音楽家たちの深遠な世界が興味深い。また、五線譜のエンボスを施したオフホワイトの装丁が上品で好ましい。(齋藤聡海)
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メタローグ
選ばれた人間のみが神から与えられる才能<絶対音感>。巻頭、パステルナークとスクリャービンの間に交わされる印象的なやり取りから読者を引き込んで離さないこの本は、音楽家や脳科学者への綿密な取材を通して、はかない人間に刻まれた<絶対>の謎に迫る。だがそこで証されていくのは早期教育で身につく、言わば刷り込み可能なものとしての<絶対音感>、音と感動との解き明かせぬ関係性、そして日本の音楽教育の歪み…… 最後に描かれる天才ヴァイオリニスト五嶋みどり一家の葛藤は、〈絶対〉と〈才能〉を背負う者の栄光と悲惨を描き印象的だが、やや浪花節に堕するのが玉に瑕か。(守屋淳)
『ことし読む本いち押しガイド1999』 Copyright© メタローグ. All rights reserved.
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