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5つ星のうち 4.0
ネタはばっちり、しかし味つけが……, 2003/1/30
最近真保裕一作品が楽しめない体質になっているっていうのは、ぼくだけなんだろうか。あの『奪取』から『ホワイトアウト』の頃がやっぱりこの作家のピークだったんだろうか。そんな恐ろしい懐疑を懐に抱いたまま、けっこう困った顔をしてこの作家の本を読んでいる。 なので、この本には相当期待したのだった。ひさびさの真保版クライム・ノベルらしいし、何せ目次を読んだだけで期待できそうだった。「序章 誘拐の萌芽」「第一章 十七歳の誘拐」「第二章 十九歳の誘拐」「第三章 誘拐の接点」「第四章 誘拐の果実」と、なんだか『奪取』以来のわくわく感を持たせるような構成をしているわけで。 ところが特定の主人公らしき人が不在のままで、ああ、集団小説なのかと映画『誘拐報道』みたいなイメージの俯瞰視線で、とにかく客観的に物語的事実だけを読み進める。その客観が中盤でどんどん崩れてきて、作者のイメージではおそらく共感を得て欲しい人物に主観が埋めこまれ始める。でも、そういう人物に限ってさほど共感を覚えたくもないというところが、いかんともしがたい。 作者とぼくとの感覚のズレんなんだろう。読者によっては、ああ、いい話だなあ、家族って大事だよねえと心震えたりもするのかもしれないけれど。しかしそうした流れに持ってゆきたいならば、もうちょい最初からその人物にフォーカスしておいて欲しかった。おまけに焦点の移動は最後までとうとう落ち着きがなく、腰が座らないままストーリーを追うという、作品との距離感だけで終始してしまった。 宮部みゆき『模倣犯』との差が明らかだ。あちらも実に多くの人物を登場させ、視点をめまぐるしく変えて、罠の多いストーリーを走らせているのだけれど、本書ほど客観性に依存することなく、本書ほどヒューマニズムの論理だけでは動いていず、どこか突き放したような負へ志向してゆく部分がセンシティブで魅力的な小説に仕上げたわけで、それがあの小説に嘘寒いような奥行きを与えているのだと思う。そういう怖気のようなものを感じることが本書にはなくって、あくまで善人作家に堕してしまったのか、真保よ、との非常にぼくとしては薄っぺらな感覚。 この作品を肯定的に見る人の場合必ず持ち上げるポイントになるとは思うけれど、トリックは実は本当に凄いのだ。よくぞ思いついたぞ、このネタ! と言わせるものはあります、確か。こんな犯罪を思いつく犯人も凄いが(完璧過ぎてリアルさの欠如を感じさせるくらいに凄い)、こんな誘拐ネタを思いついた真保裕一は天才だと思う。でも、結果的にこの本の仕上がりを見ていると、せっかくのネタがもったいなかったと感じてしまうのだ、ぼくは。このネタにもう少し毒を含ませて、きれいごとではない犯罪小説というものを書いてもらったほうが読者のニーズにはさらに応えていたという気がする。 本書でも世相の苦さ、現代という時代や仕組みについてはよく描けているのだが、キャラクターサイドなんだか、作者の見識(作中では神の声のよう)だかわからないような、説教くさい世相描写というのは、小説としては技術的にやはり半端なものに感じてしまう。散文ということに徹底して、登場人物たちをもっと個性的に変えて、その人間固有の部分物語の中に活かさない限り100%の読後感は難しいのかなあ。 いい作家であるだけに、現状、ちと厳しい眼でぼくは見ています。
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