かつて、芥川龍之介がその技巧を称賛した、短編小説の名手でもあるビアスの筆は、あらゆる物事の虚飾をはぎ取り、真の姿をさらけだす、まさに悪魔の筆である。その手にかかると、「弁護士」は「法律の抜け道を見つける熟練者」となり、「大臣」は「権限は大きく、責任は軽い役人」、「平和」は「ふたつの戦争の間にある、だましあいの時期」となる。「生命」にいたっては「肉体が腐らないよう保存している精神の漬け汁」と定義されてしまう。
ビアスの糾弾は、急速な工業化と経済発展を遂げていく南北戦争後のアメリカで、数々の不正や腐敗がはびこった「金メッキ時代」に向けられていた。にもかかわらず、その批判は現代社会に通じるものが多い。筒井の訳は、そんなビアスの文章に秘められた普遍性とおかしみを、平易な訳文と丹念な注釈をつけることで十分に引き出している。日米を代表する諷刺(ふうし)作家のコラボレーションともいえる本書は、筒井が語る「上質の諷刺は時代では風化しない」(『笑犬楼の知恵』より)という言葉をはっきりと証明するものである。(中島正敏)
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