著者は、イギリスで最も尊敬されているジャーナリストの1人であり、自らも農場を経営し、農業と深くかかわってきた。自分自身の体験をもとに、膨大な記録や専門家たちへの取材を通して書かれた本書は、出版と同時に大きな反響を呼び、世界各国で出版された。
現在の食品店の棚には、種類も量も実に豊富な食品が並んでいる。イギリスでの食糧増産は、戦時中の困窮の反動から、戦後50年にわたり一貫して追求された政策だった。増産は見事な成果を上げたが、一方では生産の方法を大きく変えた。農薬や化学肥料が大量に投入され、工業的に農産物を生産する集約農業が行われるようになった。そのうえ、その海域の生態系を破壊してしまう魚の養殖が始まり、成長を早めるために鶏や豚に抗生物質が投与されるようになった。
ミルクの出を良くし、経費を抑えるために、草食動物の牛に共食いまがいの肉骨粉を与えたため、BSE(いわゆる狂牛病)が発生したのは、手痛いしっぺ返しの序章に過ぎないのかもしれない。輝かしいバイオテクノロジーによる遺伝子組み換え作物については、著者は「最大の賭けが始まっている」とその危険性を指摘し、危惧する。
本書の「解説」で、ジャーナリストの筑紫哲也が書いているように、「あのイギリスでさえ、こうなのだから、私たちの国ではもっとひどいことが起きているのでは、と恐ろしい想像が働いてしまう」という感想をもつ読者は少なくないだろう。
著者は、「これは絶望の書ではない」と述べ、「同じ過ちを二度と繰り返してはならない」「信じてはならないことがある。人間は偉いのだから、好きなことだけやって後始末などしないでもよい、という考えだ。(中略)そんな時代はもう終わりにしようではないか」と訴えている。これはまさに、イギリスに限らず、全世界に向けてのメッセージである。(加藤亜沙)
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