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日本に1つしかない精神科救急に密着取材、その知られざる内部を丹念に探り、脳科学から精神疾患へのアプローチなどの最新の成果も取りこみ深く考察する。精神科医療の流れを知り、今後のより良いありようを模索するための良書だ。
「社会は、それにふさわしい犯罪をもつ」という有名な言葉がある。精神疾患も同様に、その社会の負の側面を浮き彫りにするようなところがある。とりわけ価値観が多様化し、長期不況も追い討ちをかける現代日本では、鬱(うつ)状態や自殺は、もはや身近な話題だとすら言える。「人間社会の不可解さを突きつけてくるテーマに惹かれるのはジャーナリストの性(さが)のようなもので、逆に言えば、精神病や精神病院にまるで関心を示さないジャーナリストは、その資質に疑問が呈されてよい。」と、本書「プロローグ」でいう著者は、その信念に忠実に、誠実な取材姿勢を通じて精神科医療の世界に読者を深くいざなう。
同じテーマの名著として、大熊一夫による『ルポ・精神病棟(旧・新)』が名高い。これは1960年代後半から70年代前半のいわば暗黒の領域だった精神病院に潜入取材した衝撃のルポだ。『新ルポ・精神病棟』で取り上げられている、80年代の新しい動きの中で準備中だった「千葉県精神科救急センター(現・千葉県精神科医療センター)」が、本書の舞台だ。偏見などの逆風に耐えてふんばりつつ、患者にとって最善の道を手探りでさがす医師と看護士らの奮闘が、臨場感ある記述を通して、ずばっと伝わってくる。特に、個性的な医師たちが現状や理想を語る肉声は印象に残る。
医療行政の問題点と、その改善の方向にも果敢に斬り込んでゆく著者は、冷静に見つめた現実を、プライバシーに配慮しながら丁寧に記述してゆく。最後に著者は、精神病院の内と外の「地続き感」を、さらっと語っている。それを読むとき、読者もまた、問題意識を著者と共有し、地続きになり、さらに精神科医療以外のことへも思考を拡げてゆく。つぼの底にかすかに見える希望をのぞきこむのにも似た味のノンフィクションだ。(坂本成子)
出版社/著者からの内容紹介
「精神病は治せるんだ!」医師たちの闘いは今日も続く――
突然妄想に取りつかれたエリートサラリーマン、神様モードの青年、自殺したい少女……
。 24時間態勢で精神科救急に取り組む、日本で唯一の公立病院を3年にわたり密着取材。
知られざる精神医療の最前線を追う!
いま日本のすべての病院の入院患者総数は約140万人で、そのうち精神病で入院している人は約34万人にのぼる。つまり、日本の入院患者のほぼ4人に1人が精神病患者なのだ。
この驚くべき事実を、ほとんどの日本人は知らない。――(本文より)