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成熟と喪失―“母”の崩壊 (講談社文芸文庫)
 
 

成熟と喪失―“母”の崩壊 (講談社文芸文庫) (文庫)

江藤 淳 (著)
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メタローグ
戦後最大の文芸評論家だった江藤淳(1932―99)の批評作品は秀作の森である。安岡章太郎、小島信夫ら第三の新人の作品を爼上に乗せながら、戦後社会の精神風土の変質を解き明かす本書は、その秀作群の一つに過ぎないが、「母」と「子」さらに「妻」という著者の宿命的テーマを掘りあてている点で特筆される。幼いころ母を失った著者の目は、母と子が暗黙の合意の元に精神的な密通をはかっていた前近代日本の幼児性を見破りつつ、母が「女」となる戦後社会で、楽園から追放される男たちの戸惑いを精緻に描き出していく。江藤氏にとって妻の死は、遅れてやってきた“母”の崩壊であったのだろうか。(宮川匡司)
『ことし読む本いち押しガイド2000』 Copyright© メタローグ. All rights reserved.


出版社/著者からの内容紹介
「成熟」するとは、喪失感の空洞のなかに湧いて来るこの「悪」をひきうけることである(本文より)「海辺の光景」「抱擁家族」「沈黙」「星と月は天の穴」「夕べの雲」など戦後日本の小説をとおし、母と子のかかわりを分析。母子密着の日本型文化の中では“母”の崩壊なしに「成熟」はありえないと論じ、真の近代思想と日本社会の近代化の実相のずれを指摘した先駆的評論。



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5つ星のうち 4.0 noli me tangere, 2008/3/21
  イエスは言われた。「わたしにすがりつくのはよしなさい」(ヨハネ20:17)

 死を前に、神の国を前に、すがりつく女、マグダラのマリアをイエスが振り払うこの
シーンがすべてを象徴するかのよう。

 成熟とは、「近代」へと「自由」へと飛び出すこと、「母」を喪失すること、その喪失に
よって「母」を傷つけた罪を引き受けること。
「近代」において特徴的なこととは、例えば家や集落に代表されるかけがえのなさを振り
払い、例えばコンビニに象徴される匿名性、入れ替え可能性へと移行することに他ならない。
 この移行に当たっても、「父」はなんら問題とはならない。なぜなら、家から社会へ、
「私」より「公」へ、というより大きなパターナリズムへと委ねられるに過ぎないから。
 しかし、「母」についてはさにあらず。親族構造における交換に基づく接続記号として
存在を許されていた「母」は、その家が放棄されれば、必然的に死を迎える他ない。まさに
「女は存在しない」。
「母」の庇護を離れて独立する――「自由」とは苦しいもの、それゆえ「自由」を前にして
人はしばしば逃走を選ぶ。いわゆる団塊の世代がその自由を前にしながら、あるいは前に
するがゆえに、かえって異様なまでに保守的な家庭制度や道徳を好むのはまさにその実践。

 戦後の小説から「成熟と喪失」を説く江藤の議論は極めてよく練られたもの(というよりも、
単に小島信夫の小説があまりによくできているだけな気もする)。
 しかし、これを近代を迎える日本に特有の現象と位置づけ、読み解いてしまうのは完全なる
ミスリーディングと言わざるを得ない。この主題は、世界中のほぼすべてのパターナリズムを
基調とする文化体系において、「近代」への移行が構造からして必然的にはらまざるを得ない
問題であって、日本とてその一例に過ぎない。事実、日本固有の「母」をめぐる江藤の特徴
づけはいかにも弱い。

 そして蛇足ながらもう一点、遠藤周作をめぐる「父」と「母」にも誤解があるようだ。
「神よ、神よ、なぜにわれ見捨て給うか」。
 神はすべて人間を前にしては「無力な神」、踏み絵を甘んじて受ける神として現れる
他ない。
 その結果として、人間は「神の国」を断念して、「この世」へと引き返すよう強いられる。
それはすなわち女の存在する世界、「母」への帰還。
「神の前で、神と共に、神なしに生きる」。
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11 人中、4人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0 わかりやすい構図, 2004/11/13
母の喪失は成熟のあかし、
アメリカ西部開拓時代からのフロンティアスピリットから
文学を、社会を縦に切る構図はわかりやすい。
独創的な評論でおもしろく読めた。
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