メタローグ
戦後最大の文芸評論家だった江藤淳(1932―99)の批評作品は秀作の森である。安岡章太郎、小島信夫ら第三の新人の作品を爼上に乗せながら、戦後社会の精神風土の変質を解き明かす本書は、その秀作群の一つに過ぎないが、「母」と「子」さらに「妻」という著者の宿命的テーマを掘りあてている点で特筆される。幼いころ母を失った著者の目は、母と子が暗黙の合意の元に精神的な密通をはかっていた前近代日本の幼児性を見破りつつ、母が「女」となる戦後社会で、楽園から追放される男たちの戸惑いを精緻に描き出していく。江藤氏にとって妻の死は、遅れてやってきた“母”の崩壊であったのだろうか。(宮川匡司)
『ことし読む本いち押しガイド2000』 Copyright© メタローグ. All rights reserved.
出版社/著者からの内容紹介
「成熟」するとは、喪失感の空洞のなかに湧いて来るこの「悪」をひきうけることである(本文より)「海辺の光景」「抱擁家族」「沈黙」「星と月は天の穴」「夕べの雲」など戦後日本の小説をとおし、母と子のかかわりを分析。母子密着の日本型文化の中では“母”の崩壊なしに「成熟」はありえないと論じ、真の近代思想と日本社会の近代化の実相のずれを指摘した先駆的評論。
商品の説明をすべて表示する