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御行の又市、山猫廻しのおぎん、事触れの治平ら小悪党たちの暗躍を描いた人気シリーズの第3弾。幕末を舞台とした先の2作とは異なり、時代は明治へと移り変わっている。年老いた主人公、山岡百介が、数十年前に又市らによって仕組まれた事件を振り返るという趣向だ。奇怪なしきたりに縛られた孤島、死人が放つ怪火、不死の蛇、人へと変化する青鷺など、著者が得意とする妖怪を題材にした6編が収録されている。第130回直木賞受賞作。
本シリーズの大きな魅力は、どうにも立ち行かない事態を、妖怪の仕業として収めてしまう又市らの大仕掛けにある。その鮮やかな手口は本書でも健在であるが、特徴的なのは、又市らの胸をすく活劇を、過去のものと位置づけている点だ。老いた百介の背後に浮かぶのは、近代へと移行する世の中にあって、失い、忘れ去られていったものたちの姿である。全編を貫くのは、妖怪が無用の長物と化した「無粋な時代」に対する寂莫たる思いだ。それだけに、最終話「風の神」で、最後の仕掛けを施す百介の姿が胸に迫る。
また、『陰摩羅鬼の瑕』など、憑物落としの中禅寺秋彦が活躍する「京極堂シリーズ」と共通する人物が登場する点も興味深い。これにより、又市らが登場する『嗤う伊右衛門』なども含め、その作品世界が、1枚の絵の中に収まることが明らかとなった。そこには、妖怪という視点から、我が国の成り立ちとその行く末を見定めようとする著者の遠大な試みが見え隠れしている。本書は、その重要な接点ともなっているのである。(中島正敏)
出版社/著者からの内容紹介
妖怪誑かしの小悪党、又市とその一味が活躍するシリーズ第3弾。
明治10年。巡査の矢作剣之進はある酒の席で珍奇な伝説を巡り、友人らと言い争いになる。収拾が着かなくなった剣之進らは、奇妙な隠居老人山岡百介の元を訪れた。百介は昔体験したという不思議な話を語り始めるーー
恨みつらみに妬みに嫉みー。かくも人間は、闇を抱え続けて生きねばならぬのか。その深き業をやるせなく描く、圧巻のあやかし絵巻。いずれ行き着くは同じ場所。丁度、これが、百話目で御座います。あの大きな事件から数十年後。時代は江戸から明治へ。矢作剣之進:不思議な物に心惹かれる正義漢、東京警視庁一等巡査。倉田正馬:元徳川重臣の次男坊で洋行帰り、新しいもの好きの合理主義者。渋谷惣兵衛:剣術使いで町道場主という豪傑、顔に似合わず理が勝つ男。笹村与次郎:元北林藩江戸詰藩士、控えめで温厚な皆のまとめ役。一白翁:九十九庵に住む八十幾つの隠居老人、無類の不思議な話好み。小夜:一白翁の身の回りの世話をする遠縁の娘。初回限定!新聞錦絵掲載(カバ―裏)