そして本作のテーマは「心の障害」である。精神科医の榊は、病院の問題児である少女・亜左美を担当するが、前任者の下した診断に疑問を抱きはじめる。彼は臨床心理士の由起と力を合わせ、亜左美の病根をつきとめようとする。
きわめてタイムリーな素材に思えるが、7年前から構想を練り、多くの時間を費して文献を読み込んでいたという。その間にさまざまな映画や小説で扱われた多重人格(解離性同一性障害)が、ここでも重要なテーマの1つとなっている。
しかし、本作はあまたのサイコ・ホラーとはっきり異なっている。センセーショナルな描写や筋立ては極力排され、精神疾患という「異世界」で苦しむ患者たち、彼らを助けようとする医師たちの姿が共感をもって描き出される。その姿勢がケレン味のなさとしてあらわれる部分もあるが、サイド・ストーリーとして重要文化財の贋作疑惑を配するなど、巧みな展開で補っている。読後、多くの人が、心の障害は決して特別なものでないと気づくだろう。いわゆる「普通人」と「患者」との間にある垣根の低さに慄然とするかもしれない。そう感じられるのも、全編に充ちた誠実な眼差しがあればこそである。(大滝浩太郎) --このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。
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