本書は、SFやブラックユーモアなど幅広いジャンルにわたる筒井作品の中で、『時をかける少女』や『わたしのグランパ』などの少年少女小説に分類される。リアリズムの文体を用いながらも、犬と会話する主人公や空色の髪の少年、母親の幽霊といった非現実的な設定をふんだんに取り入れ、ひとりの女の子の成長物語を感動的に紡ぎ出している。荒唐無稽な作り話に陥らずに、逆に現実世界の不条理を浮き立たせているのは、かねてから「マジック・リアリズム」や「メタフィクション」などの実験的な文学の方法を模索してきた筒井だからこそできる力技だ。
「現実の鏡として虚構が存在した時代は終わっている」と語る筒井が挑戦しているのは「現実が模倣し得ぬ虚構」(筒井康隆編『方法の冒険 21世紀文学の創造 3』より)の構築だ。野犬の群れと暴走族を従えて父親に会いに行くクライマックスでの愛の姿は、私小説を主流とした日本文学の固定概念から軽やかに飛翔している。虚構の楽しさを凝縮した本書は、子どもたちには小説のおもしろさを、大人たちには小説のさらなる可能性を示してくれるに違いない。(中島正敏)
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