「魔法の国」ではなくて、「混乱の国」。そこに住む女性エンジニアのアリスは、きまじめなあまりに何かというとすぐに周囲が見えなくなり、仕事にもその破綻ぶりが出てしまう。問題を解決するために導いたはずの答えが、いつの間にか次の問題をこしらえている、という感じだ。しかし本人だけはいたって真剣であり、自分がおかしなことに気がつかない。それを周囲が指摘しようものなら、誰も処理できないほどの反発が理屈として返ってくる。その意味でも彼女はもはや「この世」の人ではなく、「彼女の世界の住人」であって誰も手を出せない。
女性がジョークの標的になるというのは、アメリカのテレビやコミックの中で、ここ数年出てきた傾向の1つだ。社会的に性差別が撤回されて、さまざまな細部にまで女性の意見が反映された社会が一応の成熟をみたからだろう。気がつくと女性も矛盾だらけ、おかしなところだらけ、ということが徐々に笑いの対象となってきた。そのことを、女性たち自身がどれだけ気づいて自覚しているかはわからないが、「自分だけ正しいと思っている」ような態度とか「正義と欲望の区別がつかない」ような在り方というのは、確かに笑いの原因になり得る。なぜならジョークというのは、強者の弱みを見いだして指摘するところに基本があるからだ。
僕もアリスのようなアメリカ女性をとある出版社で目撃したことがある。彼女は自分のコンピュータが思ったように働かないのに腹を立て、画面に向かってすごい言葉を連発し、しまいには「最近セックスの回数が少ないのがいけない」と、自分のボーイフレンドの悪口を言いだしたのだ。哀れな彼は、「あなたのせいでコンピュータの調子が悪いのよ!」と言われてしまうのだろうか。(駒沢敏器)





