ブルース・フィーリング溢れるプレイを持ち味にデビューしたグリーンだが、1963年から65年にかけて新主流派との競演を繰り返す。本作『抱きしめたい』は、それらのレコーディングの最後に録音された作品である。
まず、選曲が非常にバリエーションに富んだものとなっているのも特徴だ。当時流行したビートルズやボサノヴァを積極的に取れいれようとする姿勢が見える。タイトル曲のアレンジはラリー・ヤングあたりが考えたのだろうか。カバーが多い同曲の中でも圧倒的に個性的だ。グリーンは他のアルバムでも、パーカーナンバーからカントリー、JBナンバーなど多彩なタイプの曲を演奏している。おそらく人がやっているものをすぐ取り入れたがる性格だったのだろう。
全体的には、グリーンの作品の中では地味な印象を受ける。しかしよく聴けば、これはグリーンの魅力がたっぷり詰まった、全く隙のない傑作であることがわかる。
まず一曲目のタイトルナンバーが素晴らしい。くつろいだ雰囲気の中で、グリーンはその肉感的なトーンでシンプルなフレーズを次々に繰り出している。ギターの音が多少詰まっていてもお構いなし、それさえ魅力的に聞こえる。モブレーも全盛期こそ過ぎているが、よく歌ったいいソロをとっている。
二曲目の「スピーク・ロウ」ではエルヴィンを含めたメンバー全員が疾走し、三曲目、六曲目のスタンダードでもグリーンは充実したソロを聞かせる。
注目したいのは五曲目の「何か素敵なことが起こりそうな予感」。あまり取り上げられることのない曲だが、これぞジャズギタリスト、グラントグリーンというソロが聴ける。いい意味で力の抜けた演奏で、シンプルだが全く無駄がない。
コマーシャルな作品と言われることの多い本作だが、グリーンの魅力を余すところなく伝えてくれる、愛すべき傑作である。