ヴィクトル・デ・サーバタの数少ないスタジオ録音のひとつだが、プッチーニの『トスカ』と並んで、スコアから横溢するドラマを引き出す彼の恐ろしいほどの鋭い洞察力と、ソリスト、オーケストラ、コーラスを一瞬の弛緩も無く緻密に統率する優れた手腕が示された名演。1954年にミラノ・スカラ座管弦楽団と合唱団を振ったモノラル録音で、音質的には恵まれていないが、音楽そのものを鑑賞するには現在でも充分価値がある。
ソリストの中でも驚かされるのはシュヴァルツコプフの後年には聴かれないような大胆で奔放な歌唱で、おそらくこれは指揮者サーバタの要求した音楽と思われるが、後半の『リベラ・メ』のドラマティックな表現や『レクイエム・エテルナム』で聴かせる消え入るようなピアニッシモの繊細さも彼女の並外れたテクニックによって実現されている。また『アニュス・デイ』でのメッゾ・ソプラノ、ドミンゲスとの一糸乱れぬオクターヴで重ねられたユニゾンの張り詰めた緊張感の持続も強い印象を残す。
テノールのディ・ステファノはライヴ演奏でもしばしば起用されたこの曲のスペシャリストでもあり、彼の明るく突き抜けるような歌声は宗教曲の演奏としては異例だが、ベル・カントの泣き節たる『ヴェル・レク』ではすこぶる相性がいい。第10曲『インジェミスコ』の輝かしさは教会の中よりもむしろ劇場空間での再現が適している、一種のオペラのアリアであることを端的に物語っている。
チェーザレ・シエピについて言うならば、バスのパートをこれだけ完璧なカンタービレで歌いきった例も少ないだろう。その深々として良く練り上げられた声質は重唱においても音程が正確で、他の歌手と共にヴェルディが書き記した対位法の各声部を明瞭に追っていくことが可能だ。
尚2枚目のCDの余白にはライヴから集めたオペラの序曲集とレスピーギの三部作から『ローマの噴水』が加えられている。