大貫妙子と坂本龍一、1980年代から定期的に共同創作を行っている名コンビである。スタジオ作品としては前回のコラボは19
97年の名作「LUCY」に遡るが、坂本氏の温かなプログラミングを駆使したポップス仕様の前作とは対照的で、本作は大貫氏の
うた、坂本氏のピアノのみというこの上なくシンプルかつストイックな構成にて、過去の坂本氏の曲に大貫氏が歌詞をつけた作品
を含め11曲収録されている。結果、良い音楽はミニマムな構成でも創造できることを見事に証明した極上の「うたもの」が並んだ。
大貫氏の発声は実に独特で、ことばの一音ずつを吐き出すように丁寧に強調した歌い方をする。また決して早口で言葉をまくし
たてることがない故に、各々の言葉が聴き手の耳をすり抜けることなく残り深い余韻を残す。坂本氏のピアノも大貫氏の独特の
息遣いにぴったりと寄り添う様に、実に繊細な和声を奏で彼女の歌唱にさらなる魅力を添えている。
大貫氏は卓越した作詞家でもあり、今回坂本氏が映画や他人名義作品等の為に書き下ろした器楽曲に歌詞を添えているが、原
曲のイメージを壊すことなく、さらに聴き手の想像力を膨らませる素敵な言葉達ばかりだ。特に中盤「Antinomy」や「Flower」での、
欧州の映画のワンシーンを想起させるような物語性溢れる言葉達がとにかく素晴らしい。
他にも童謡「赤とんぼ」に漂う郷愁感と温かさ、「鉄道員」での厳しさと気高さを感じさせる彼らの演奏は、歌の素晴らしさの原点の
ようなものを聴き手に想起させてくれる。
スローテンポな曲が多い中、本作の為に書き下ろされた軽やかな「a life」が際立つ。ここで彼女が発する言葉は極めてシンプル。
「そして出会おう 素敵な人と 言葉をつかもう 生きた声を」という一連の言葉は、この厳しい時代の中、人として貫くべきスタンス
がこめられている気がして、背中を押されているような気持ちになる。
作品は彼女の名盤「pure accostic」にも収められていた名曲「風の道」でひっそりと幕を下ろす。詞中の「おたがい寄り添う月日を
思えば 語る言葉もないほど短い」は、様々な人達との出会いと別れを繰り返してきた人なら、深い余韻を残さずにはいられない
名フレーズだろう。
2枚目のインスト盤はほぼ1枚目の曲群とリストが被るが、終曲の9分半に及ぶ「Geimori」は、本作の制作過程を坂本氏の断片的
なピアノフレーズと大貫・坂本両氏の会話とで綴った異色作。会話の内容から、各箇所のピアノの音色まで大貫氏が細かく指示し
ている処からも、細部にまで拘った作品であることが窺えるだろう。
幅広い年代層の方に聴いていただける、流行や時代を超えた普遍的な価値を持つ極上の「うたもの」集としてお薦めしたい。