(はじめに)当巻だけでなく、「UN-GO」というシリーズ全編を通しての推薦レビューになります。
最近観た中で抜群に面白いと感じたものが、このTV放送されたアニメーション・シリーズの「UN-GO」である。“UN-GO” は戦後無頼派の作家、坂口安吾のことであり、その短編連作「明治開化 安吾捕物帖」に、時代設定等を移行するなどのアレンジを施し、映像作品としたものが本作である。もちろん原作とは大きく異なるストーリーが導かれているのであるが、感心するのは、全編を通した心的メッセージが、原作に沿っており、監督である水島精二と脚本を担当した會川昇の伝えたいことが、小説以上の深さを伴って伝わってくると感じられる点である。
この作品をご覧になるかたには、“エピソード0” を含む全編を、できれば2回以上通して観ていただきたいと思う。繰り返しの視聴に耐えうる作品であることは言うまでもないが、初見時とはまた違った様々な感興を引き起こす作品だと思うし、そういった意味でも「とても良くできた」作品だと思う。
水島精二監督、會川昇脚本の作品というと、すぐに想起されるのが「鋼の錬金術師」である。この作品は、繰り返される母性の象徴との対峙を繰り返し、これを克服する過程で、「罪」とそれに相応する「価値」に言及し、かつエンターテーメントとして上質という、稀にみる思索性に富む名品だと感じた。(ちなみに私は、會川氏が日本を代表する優れた脚本家の一人であると考えているものです)
私は、會川さんがNHKの番組で、ノンフィクション作家の森達也氏らと、<現代、私たちが伝えるべきメッセージは何か、ということを、常に突き詰めるように考えている>といった内容で、共感されているのを覚えており、是非その後の作品にも注目したいと思っていたのだが、この「UN-GO」こそ、それに相応しいものだろう。・・ちなみに、「UN-GO」という作品では「歌」というキーワードも重要だ。森達也氏の優れたドキュメンタリー、「放送禁止歌」を彷彿とする部分があることを書き添えたい。
「UN-GO」について會川氏がインタビューに答えているのをネットで読むことが出来るが、中で「人間には本来正しいことをしたいという欲求があるが、現代では、この欲求と自我を折り合わせるため、他に対して、潔癖さを要求する行為を重ねるケースが増えている」という主旨の事(警鐘)を語っており、私も深く感じ入った。「UN-GO」という作品にはもちろん主人公がいて、彼は探偵として真実を希求するが、その一方で「真実」の価値に自分がどう向き合うのかという葛藤を持っている。そして、物語は、その葛藤を強く揺るがし続けるような、力強い、まさにドラマチックな展開を見せつける。・・・現代では、他者に対し強く「潔癖」を求める一方で、個人個人の中に、その価値自体を推し量る尺度(様々な経験を経て育てる価値観のようなもの)が十分に成熟していないのではないか。そのような背景で、社会全体が、「正しい」と盲目的に思い込んだ状況が続いてしまうことで、歴史的な過ちを繰り返すことになるのではないか。・・・そういった疑念や警鐘を、科学的あるいは論理的に、他者や社会に説明するのは難しい。圧倒的な正論の前で、その「危うさ」を示すということは、困難な場合が多い。そして、そのことこそが観念に生きる人間の、そして人間から構成される社会の「脆弱さ」そのものである。
作中では、「御魂(みだま)」と称される「人間が心底に潜めているもの」に言及される。しかし仮に「語られない本音」があったとしても、それが直接「人間性」と等価なのではないはずだ。個人個人が様々な経験から築き上げた「<語られない本音>に対処する方法」の部分、その不安定な影のような部分にこそ、か弱くも気高く貴重な「人間性」があるのではないか。そんな大切なメッセージが伝わってくる。
ちょっと難しく書き過ぎたかもしれない。内容には触れないように書いたつもりである。エンターテーメントとしても非常に優れていて、観ていて自然と引き込まれる作品である(これは重要ですね)。Pakoと高河ゆんによるキャラクターの造形も魅力的できれいだし、BGMの雰囲気、特に毎回本編からEDテーマへ移る暖かい音楽的雰囲気が際立って秀逸で、視聴後の気持ちを優しく中和してくれる。ボンズの製作技術の高さも併せて堪能できよう。
全巻Blu-rayを購入させていただき、久々にじっくり楽しませていただいた映像作品でした。また、この作品を観たことを踏まえて、自分のことも、いろいろ考えなおしてみたいと思った次第です。