写実的な小説は、目に見えないもの/思考しえないものをうまく表現できません。これらを表現するため、作家たちはファンタジー、メタフィクションなどの形式を利用します。ただ残念なことに、通常これら形式の小説は「リアリティ」が薄いという欠点を持ちます。トレードオフ:見えざるものの表現vsリアリティ。
この「魔術師」はこのトレードオフの最も見事な解決例です。写実的に見えざるものを描きつつ、まるでドアのすぐ外に登場人物がいるような迫真感。ファウルズのイメージ喚起力は素晴らしい。読者は主人公の旅をたどり透明な怒り、苦痛、絶望を追体験できます。読後数年経ってもイメージは薄れません。これが「小説家の才能」というものなのでしょう、、、