『The Hungry Gene』(邦題『太りゆく人類』)は、拡大しつつある肥満という流行病を見すえ、今の時代に最も問題になっている科学の謎にかかわる、遺伝および行動学的な根本原理を解明しようと進行している研究の数々を紹介している。30年以上前に最初の超肥満マウスを育てたメイン州の閑静な施設から、科学者たちが昼夜兼行で肥満を引き起こす遺伝子の分離に取り組むニューヨークのロックフェラー大学まで、著名な科学ジャーナリストであるエレン・ラペル・シェルは、脂肪との戦いの最前線を訪れる。
その途上で、シェルは過激かつ論議を呼ぶ外科的技術で重症の肥満に取り組む医学界や、ミクロネシアの島民の肥満の発生率が肥満の進化論的ルーツについて示唆すること、またこの「100億ドルの病気」を治療する薬の開発を競う製薬会社の姿勢を検証する。彼女はまた、この危機の背後に潜む肥満を誘発する傾向を強める文化に照準を定める──車中心で歩かないライフスタイルを育んだ郊外住宅地のスプロール現象や、現代の共働き家庭の超過密スケジュールに目を付けたファストフードの販売促進戦略などだ。科学と歴史、個々の体験談をおりまぜながら、肥満という流行病に屈服することなく打ち勝つ方法を示す、力強い結論に向かう。
読者の心をとらえる刺激的な本書は、世界がいかにして肥満に陥ったかを解き明かすスリルに満ちた物語であると同時に、われわれがこの事態にどう対処すべきかを示すものでもある。『The End of Science』(邦題『科学の終焉』)の著者ジョン・ホーガンはシェルをこう評している。「登場人物の描写と盛り上げ方に関して、小説家並みのセンスをもったしぶとい書き手」と。 --このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。
肥満は意志の弱さの表れである―。この見方は過去のものになりつつある。その理由は、肥満の遺伝学が進歩したこと、特にレプチンの食欲抑制ホルモンとしての機能が明らかになったことなどだ。研究を成し遂げたロックフェラー大学にアムジェン社が支払ったライセンス料は2000万ドルだが、これは抗肥満薬市場が1兆ドルを超える魅力的な市場だからだ。多くの製薬企業が抗肥満薬の開発に乗り出し、肥満の研究は一気に加速した。本書の中では、特にレプチン発見までの物語を中心に、肥満遺伝子の研究競争の様子を描く。
しかし、筆者は一方で肥満遺伝子の発見と抗肥満薬の創製だけが、肥満を解決する手段でないことを強調する。抗肥満薬は副作用の危険をはらんでいるし、食品業界は莫大な広告宣伝費をかけて、消費者に安い値段で高カロリーを摂取することを勧めている。どんなに有望な抗肥満薬が登場しようとも、現在の過食社会が変わらない限り、肥満はなくならないと著者は警鐘を鳴らす。
(日経バイオビジネス 2003/11/01 Copyright©2001 日経BP企画..All rights reserved.)
--このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。
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マクドナルドをはじめとする巨大な企業が
マーケティング手法を駆使して世界中の消費行動を変えた
という考え方は最近、いろいろな本で展開されているが、
本書は医学の専門知識と企業のマーケティング戦略の
両面から肥満という医学的な現象を捉えた力作です。
肥満に関する医学知識も分かりやすく解説されているし、
本書の後半!に展開されている、ファーストフードや清涼飲料水メーカーを
厳しく追及する筆者の一貫した姿勢が頼もしい。
処女作とは思えない。サイモン・シン『暗号解読』を超えるサイエンスノンフィクションには至らなかったが、次回作は期待大だ。
この本は、肥満治療の歴史、そして、現代最新の肥満治療、医学理論をわかりやすく書き上げるとともに、今の資本主義社会がいかに肥満というものを作りしだしているか、ということを丹念な取材と、精確な批評眼によって、書き上げた一冊となっている。
メインになる肥満遺伝子の発見史については一流の科学ノンフィクションとなっており、神聖視されがちな科学、医学という分野における、富と名声を求める熾烈な経済競争、欺瞞、裏切りなどを表面化させており、読み応えのあるものとなっている。筆者は、ボストン大学でジャーナリズムを学び、ワシンントンポストなどにも寄稿したことのある、ジャーナリストとのことだが、やはり科学ジャーナリズムに関しては、かの国はまだ一歩先を行っていると感じる。
物語の構成的にも、よく考えられており、小説でも読むかのように始まり、その物語は皮肉な結末を迎えるのだが、そこに至るまで本書を読むと、太っていることが悪なのではなく、肥満を助長する社会こそが問題なのだと思うようになった。その意味で、この本は肥満を通じた一種の文明批評であるといえる。
この本を読んで、ダイエットに関する矛盾を痛切に感じた。
本書は胃バイパスという肥満から逃れる手術のショッキングな場面から
幕を開ける。そこから肥満の歴史的な背景や肥満についての科学的説明から
肥満をコントロールしうる遺伝子を探る科学者たちの苦闘、
はたまた「やせ薬」と副作用をめぐる話題までと
「肥満」をめぐる歴史と現実のトピックスが
読みやすい筆致でかかれていく。
個人的には第10章、第11章の食品業界のたくらみと
現代病としての肥満の関係を鋭く指摘する箇所が心に響いた。
なぜなら、そこまでは「なるほどなるほど」と「肥満」を単に
ひとごととして読んでいた内容が、そこにいたって
突如これは「わたし」の問題にほかならないことに気付かせてくれるからだ。
楽をしたい。疲れることはさけて、気軽にテレビの前で何か食べたい。
こういう現代のわれわれの安易に流れる気持ちが「肥満」を生む
根本の原因となっているという事実。
そういう意味で「太りゆく人類」は「太りゆく私」への警告になっているのだ。
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