はじめのうちこそ1人ぼっちの冒険もうまく運ぶように思えたものの、彼女は迫りくる危険を察知しはじめる。その意識の変化をキングは見事に表現する。最初は張り切っていたトリシアだが「はじめてかすかな不安の陰がよぎり」、やがて激しい混乱状態に陥り、ついには幻影を見るようになる。その中でも一番うれしい幻影は、トリシアの憧れの人、大リーグ球団レッド・ソックスのピッチャー、トム・ゴードンだった。彼の試合の様子をウォークマンで聞いているうちに、その幻影が見えるようになるのだ。
キングは総じて的確で緊迫した、そしてどこか叙情的な文章で、ブンブンという気味の悪い音を立てる蚊の大群から、「超自然的なもの(神様は自然を通して何かを暗示しているんだ、とトリシアのパパがよく使っていた言葉)」が奏でる深遠な助奏までを描き切る。また、トリシアの大切な人たちのことがだんだん明らかになると、読者はますます彼女と同じ気持ちになっていく。とてもいい人なのにお酒で身を持ち崩したパパ、大好きだけどちょっと頑固なママ、それにその生き生きとした言葉遣いが非常に印象的な、トリシアの親友ペプシ・ロビチャウド(「そんなに“女の子”するんじゃないわよ、マクファーランド!」)。ふと見上げた満月が引き金となってさまざまな連想がわき上がり、「気を確かに持って、持ち続けなければ」と彼女の独白が繰り返される。そしてトリシアと共に森の中で道に迷ってしまった我々読者も彼女と同じできごとを同時体験することになる…。
アマゾン・コムのインタビューによると、キングがめざしている作品は、ウィリアム・ゴールディングの『Lord of the Flies』(邦題『蝿の王』)だそうだ。森をさまようトリシアが、ブンブンと低くうなりを上げる何者かの幻影に震え上がる場面は、これまでの作品の中で、ゴールディングの影響が最も色濃くうかがえるシーンである。(Tim Appelo, Amazon.com) --このテキストは、 ハードカバー 版に関連付けられています。
As night falls, Trisha has only her ingenuity as a defense against the elements, and only her courage and faith to withstand her mounting fears. For solace she tunes her Walkman to broadcasts of Boston Red Sox baseball games and follows the gritty performances of her hero, relief pitcher Tom Gordon. And when her radio's reception begins to fade, Trisha imagines that Tom Gordon is with her -- protecting her from an all-too-real enemy who has left a trail of slaughtered animals and mangled trees in the dense, dark woods....
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後はひたすら山中を彷徨う彼女の姿を克明に書き綴っていきます。
キングはあえて大作にせずコンパクトにまとめています。超自然的なホラーも無く(ほとんど)ストレートに物語りは進んでいきます。
しかしパトリシアの苦難も容赦なく書かれているのでかなり怖い(と言うより辛い)。だからこそラストは涙、涙なのですね
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