ある日、アントネッリは「並みはずれた知性の持主」として私淑する裁判官リオポルド・リフキンから丁重な呼び出しを受ける。「ジョーゼフ、きみは勝ちすぎだ」。リフキンはそう言って、どうみても有罪確実の男の弁護を要請する。被告人は継娘を冒したカドで起訴されたのだが、アントネッリはリフキンの期待にみごとこたえ―いや、反してか―男の無罪をむしり取ってしまう。アントネッリには、数多い勝利のファイルのどこかに入れ忘れてしまいそうな些細な出来事だったが、これが、10年後に動転の結末となって立ち上がる因果の発端だった。
アントネッリが親友でもある地方検事ホラス・ウールナーの立証のわずかな隙をついて、無罪にした被告人はジョニー・モレルといった。麻薬、押し込み、暴行の常習犯で、リフキンから初めてこの名前を聞いたとき、アントネッリ自身が「名前からして有罪っぽいじゃないですか」というような「下司野郎」だった。ところが、妻のデニースは「けだるい夏の午後の空のようなブルー」の目と、「頭をかるくあげるとふわっと肩のまわりに落ちる」ブロンドの美女だった。これほどの女が、なぜジョニーみたいな男と体を重ね、しかもわが娘を冒した夫の無実を主張するのか。そして、ジョニーに冒された一部始終を冷静に法廷で証言した娘は、彼の放免後、どこに消えたのか。
アントネッリがその後も続く連勝の弁護士活動と、初めて真実の愛を教えてくれた若い女子学生アレグザンドラとの甘い生活に忙殺されて、そんなことなどすっかり忘れたころ、ジョニーが何者かに射殺された。検察当局は妻のデニースを被疑者として起訴し、デニースはアントネッリに弁護を懇願するが、断られて有罪が確定する。そして、また忘却の時が流れ、20年の刑期を5年に減刑されて自由の身になったデニースが、ジョニー殺しとまったく同じ手口で射殺された。しかも殺しの現場は、アントネッリが尊敬してやまないリフキンの豪壮な屋敷だった。周囲の状況からリフキンにデニース殺しの疑いがかかり、アントネッリは「有罪のものを無罪にするより、無実のものを無罪にする」難しさに押しひしがれながら、リフキン弁護の法廷に立つ。ここで初めて、10年前に始まった因果の連鎖が浮き出てくるのだが、ギリシャの古典を引いて「法と正義」を説くリフキンの清廉な生き様、アレグザンドラとの恋の顛末(てんまつ)、親友ホラスとのやりとりなどに織り込められた伏線のあやは、重厚なタペストリーのように見事である。
作者のD.W.バッファはこれが第1作の新人だが、彼がリーガル・サスペンスの世界に登場させたジョーゼフ・アントネッリら新しいキャラクターたちの魅力には、絶対にはまる。(伊藤延司) --このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。
登録情報
|
|
|
|