邦訳版は「騙し屋」、「売国奴の持参金」、「戦争の犠牲者」、「カリブの失楽園」の4冊のシリーズ物になっている。だが、原書は "The Deceiver(騙し屋)" という1冊の本で、内容的にも1冊の本だと思うので、4冊を1冊扱いにして書評を書く。
サム・マクレディ、叩き上げの敏腕工作員、通称 "騙し屋"。だが、冷戦緩和に伴う英国情報部のリストラで "肩叩き" の対象にされる。これに抗議するマクレディの要請で公聴会が開かれ、彼の輝かしい功績が4つ紹介される。邦訳版はこの功績1つずつを1冊の本にしたわけである。
功績紹介の合間に "インタールード" として、公聴会の模様やマクレディの現在の思いなどが淡々と綴られる。功績の話よりも、このインタールードの方がおもしろかった。それでも全体的なまとまりに欠けるのか、「時代が変わったとは言え、これほど活躍したスパイがリストラとは…」という感慨が、あまり伝わって来なかった。
功績の1つ1つはいわば中編だが、フォーサイスは基本的に、話をスピーディに進める作家ではないので、短い話はあまり向かないように思う。比較的おもしろかったのは第2話の「売国奴の持参金」。西側対ソ連の虚々実々のだまし合いが、ハードなタッチで描かれ、なかなか読ませる。