所有欲を満たしてくれるBOXである。協奏曲箱ではアルゲリッチの協奏曲のみという縛りのせいか、オリジナルリリース時に収録されていたソロ曲や、ラヴェルのト長調とカップリングされていたミシェル・ベロフ演奏の左手のための協奏曲などもカットされてしまい、もどかしい思いを味わったが、今回はそんなこともない。しかも、こうしてみると、それぞれのアルバムのアートワークのなんとよくできていること。ジャケット写真を見るだけでも、アルゲリッチというこの巨大な彗星が、はにかみがちの微笑みの奥に深淵を隠しているようにも感じられ、なにやら気になってしかたがなくなってくる。
演奏自体も、聴けば聴くほど謎めいてくる。もちろん圧倒的な存在感……なのだが、不思議なことに室内楽になると、リズムの強調や音の色彩といった、まばゆいほどに強烈な「光のような要素」だけがきわだってきて、彼女自身の音楽の輪郭や特徴といったものの印象が薄れていく。これはまるで透明人間か、はたまたカメレオンか。昔から「アルゲリッチのピアノの特徴」として、快速のテンポとともに、人間業とは思えない強大なダイナミクスを語られることが多かったが、そういう「人よりも目立つ」持ち味とは相反するはずの「自分の姿を消す」才能こそが、じつはアルゲリッチの真髄だったのではなかろうか。
そういう意味で、私感だが、このBOXは「アルゲリッチというプリズム」を通して、彼女の共演者たちの演奏を聴くことができる稀有の記録でもある。だからこそ、ここではクレメルやマイスキー、バシュメットといった奏者たちのロシアっぽさが(自然なのに)匂い立つようだし、ピアノデュオでは彼女よりもパートナーたちの「それまではあまり表に出ていなかった持ち味」が強く輝きだす。さらにはバルトークで共演している名手ペーター・ザードロによるパーカッションが、あれだけ巧みなのにかえって控えめに聞こえるというのも、何やら暗示的な気さえする。この6枚で聴くことにとても価値がある貴重なボックスだ。アルゲリッチのファンならもちろんのこと、そうでない人にもぜひ聴いてみてもらいたい。