この本が出版されていらい、国際関係論、文明論はこの本に言及することなしにはいかなくなった。その意味で、ひとつのホールマークとして必読であるということができる。
最初に著者自身も記している通り、世界の政治地図を「文明」によって分類するというアイデアは、ひとつの作業仮説に過ぎない。著者の記述は、文明という分析ツールを用いるというパラダイムが、実際に有益であることを示すという作業に当てられている。
その具体的分析では、妥当な箇所、説得力に満ちた箇所と、著者の独断や偏見により穏当を欠く場所とに分かれている。後者の例を挙げておくと、「文明の衝突」を実際には西欧文明対イスラム文明、という図式のみで捉えられていることが挙げられよう。中国文明に対する記述も量的にはかなり登場するが、中国が取っている現実の政策についての当てはめは妥当であるという感を抱くものの、中国の行動予測については悪い意味で想像力があり過ぎるように見える(これは中国が穏健な、安全な国である、とイイタイわけでは決してない)。同様のことがわが国に対しても当てはまる。中国の台頭に関して柔軟な姿勢を取るだろう、という予想はその通りかもしれないが、アメリカから中国に同盟関係をシフトされてゆく、ということはまず考えられないからだ(これは「文明」に「オリエンタリズム」と「自文化中心主義」の両方の要素があることを著者が見落としている一つの例である)。