マラリアの媒体に一役買っているのは「蚊」であった。その程度の話なら誰でも耳にしたことがあるだろう。しかしその背景にまで細かく目を通す人はなかなかいない。作者はそんな盲点を上手く突いてきたのだろうか、表向きに成功したかのような研究者の裏側にうごめく疑惑・虚実・カルト的な世界を精巧に描いており、過去から未来にまで交錯する舞台は眩暈すら感じるほどの疾走感が溢れている。
主人公の一人アンタールは退職を間近に控えた元プログラマー。いつものように国際組織が世界各地で回収したガラクタどもの目録整理を行なっていたところ、「偶然」にもマラリア研究の謎を追いかけてカルカッタで行方不明になった同僚ムルガンのIDカードを発見する。ムルガンは、マラリアには全く素人同然の軍医ち?感染ルートを解明するのはあまりにも不自然と考え、ほとんど強引にカルカッタへ現地調査へ乗り出した好奇心のかたまり男だった。
物語はムルガン主体で描かれる場面も多く、読者はマラリアにまつわる裏の裏まで迫っていく彼の足取りに同行する興奮を体感することができる。「偶然」巻き込まれる登場人物も数多い。しかし彼らが謎に迫れば迫るほど、それは全くの「偶然」ではなく仕組まれたシナリオだった、と薄々感づいてくるうちに迎えるラストの衝撃は非常に大きい。サスペンス、SF、歴史読物といった単一分類では到底くくれないような驚き連続の眩惑ツアー。カルカッタの謎がここにある。