アートペッパーのアルトはとても軽やかに聞こえる。しかし、聞き込む程に確かな重さをもって心に響いてくる。1956年のこのタンパセッション(5曲のオルタネイトテイクを含む)は、ペッパー初期の名演奏中でもベストと言える作品だ。メンツはArt Pepper(alt),Russ Freeman(p),Ben Tucker(b),Gary Frommer(ds)の四人。この頃のペッパーは、初期ペッパーのエッセンスに満ちている。完璧なテクニックで表現される情熱的なプレー、楽しげで的確なアップテンポのスゥイング感覚、崩れることのない心に染み入る憂鬱さ。コロコロと転がる雄弁ななフリーマンのピアノ、どっしりとボトムを支えつつもウェストコーストらしくカラットしたドラムス、弾むタッカーのベース。四人の一体感溢れるプレイに圧倒されること請け合いだ。ブルージーで重みのあるモダンアートと比べると、本盤にはカラッとしたウエストコースト的な爽やかさがある。蝶のように舞い、蜂のように刺すペッパーのアルトが映えること栄えること。ハードバップジャズにアレンジされたベサメムーチョは、世界的にも有名な原曲のイメージを悉く打ち砕くアッパーが熱く燃える名演奏だ。彼がライブ演奏で最も多くリクエストを受けたのもこの曲らしい。