現代語二百数十語について,「武士語」訳を例文と共に掲載し,巻末には会話文や手紙文の「武士語」訳も載っています。
とはいえ,類書が時代劇や歴史小説などから使用例をとっているのに対し,本書は文体変換サイト「もんじろう」から生まれた図書ですので,パソコンとかNHKとか,当時はあり得ない単語なども多く,「武士語風の言い回し」といったほうが妥当かも知れません。(その点では,『現代ラテン語会話』(大学書林)などにも通じるものがあります)。
それはそれで面白いのですが,残念なのは例文に散見される「歴史的仮名遣いもどき」です。
たとえば,「まゑから」「可愛ゐ」「払ゐ下げ」「ゐわれた」といった書き方。
なぜ普通の歴史的仮名遣いで素直に「まへから」「可愛い」「払ひ下げ」「いはれた」と,あるいは現代仮名遣いで「まえから」等と書かないのでしょうか。
何とかの一つ覚えで,適当に「ゐ」「ゑ」をちりばめれば古風な味わいが出ると思っているのかも知れませんが,かえって興ざめです。見ていると気持ちが悪くなります。
「お遊びの本なんだからいいじゃないか」という反論が予想されますが,お遊びだからこそ,徹底して旧カナを使った方が「それらしさ」がいっそう出るのではないでしょうか。中途半端なおふざけよりも,大まじめにふざけた方が面白い。
また,一連の武士語ブームのきっかけになった(といわれている)野火迅さんの『使ってみたい武士の日本語』は逆に全部現代仮名遣いですが,しっかり風格が出ています。
さらには,「江戸時代の読み本の書き方は今の歴史的仮名遣いからそれたものも多い。かえってリアルだ」と反論される方には,井原西鶴なり山東京伝なりの書いた原文を読んでいただけば,確かに歴史的仮名遣いとは違う箇所もあるけれど,本書のようなめちゃくちゃな書き方はしていないことが分かると思います。
まして,監修者が「このあたりで,正しい武士語を解説する本があってもいいかもしれない。これが,この本を監修した動機の一つである」と述べているのであれば,なおさらきちんと正しい武士語(風)で書いて欲しいものです。
誰か,ちゃんと分かっている人が,本物の『現代武士語会話』を出してくれないかなあ。