ビートルズのシングル・チャート1位に輝いた曲だけを集めて2000年に出されたCDを、2009年のリマスター音源を使用してリイシューしたもの。とはいえ、このチャートはアメリカのチャートは『ビルボード』誌、イギリスのチャートは『レコード・リテイラー』紙に基づいていて、英『メロディ・メイカー』紙では1位になった「プリーズ・プリーズ・ミー」が入っていなかったりする。
2000年に出た当時は、ジョージ・ハリスンが選曲に関わったといわれる定評あるベスト盤のいわゆる『赤盤』・『青盤』が入手しづらかったこともあり、初心者にとってのビートルズ入門としてそれなりの意義があったと思うが、果たして今はどうだろうか?2009年についにビートルズの全オリジナル・アルバムがリマスターされるということで結構な騒ぎになり、さらに昨年(2010年)には『赤盤』・『青盤』もそのリマスター音源でリイシューされて、もう既にそれらを購入したという人もかなりいるのではないだろうか?特に『赤盤』・『青盤』を購入した人たちにとっては、このCDはそのダイジェスト版みたいなもので、『赤盤』・『青盤』に収録されていない曲はないし、「ラヴ・ミー・ドゥ」と「フロム・ミー・トゥ・ユー」と「シー・ラヴズ・ユー」がモノ版なのも同じ(『赤盤』にはさらに「プリーズ・プリーズ・ミー」のモノ版が収録されている)で、今回新たにリマスターしなおされたわけでもないので、コレクターというわけではなく単に曲を聴きたいだけの人にとってはわざわざ買う意味はない。
これまでビートルズを聴いたことのない人にとっては、2枚組二つで計4枚ある『赤盤』・『青盤』よりも1枚もののこちらのほうがとっつきやすく感じるかもしれないが、これを聴いてビートルズの魅力が本当にわかるかは少々疑問だ。全27曲中16曲目までは『赤盤』の抜粋版という感じだが、『赤盤』には収録されている「アンド・アイ・ラヴ・ハー」や「ノーウェジアン・ウッド」、「ミッシェル」、「ガール」などのバラード系の曲の多くが入っていないので、個々の曲は良いのだが続けて聴くと少々単調な気がする。また、初期にはシングルでヒットを飛ばすことが重視されていたからヒット曲を連ねるだけでも悪くはないが、コンサート・ツアーをやめた中期以後はアルバムをトータルな作品として作る意識が強まったので、シングル・ヒットだけを連ねるやり方をしてもその魅力はわからない。かなりサイケデリックな方向に進んだアルバム『リヴォルヴァー』からはそうした雰囲気のほとんどない「エリナー・リグビー」と「イエロー・サブマリン」しか入っていないし(とはいえこの点は『赤盤』も同じなのだが)、画期的なトータル・コンセプト・アルバムとして歴史的名盤である『サージェント・ペパーズ…』からは1曲も入っていない。あまりに多様な曲があって次から次へ万華鏡のように印象が変わっていく2枚組『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』の曲も1曲もない(つまりあの有名な「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」も入ってない)。そもそも、この『1』の全27曲を見渡しても、サイケデリック系の不思議な感覚の曲やインド音楽風の曲や前衛的な作風の曲はほとんどなく、特に『サージェント・ペパーズ…』以後に関しては、『青盤』のほうが、(もちろんオリジナル・アルバムを聴くことには及ばないものの)アルバムの代表曲をいくつか聴ける分その雰囲気が多少なりともつかめるし、この『1』に入っているシングル曲の数々も全て収録されているので、はるかにベスト盤にふさわしい。
以上のような理由で、既にビートルズのファンである人にとってはコレクションの一つに加える以上の意味はないし、熱狂的なファンとまではいかなくてもすでに『赤盤』・『青盤』を持っている人にはわざわざあらためてこれを買う意味はない。そして、まだビートルズの音楽を聴いたことのない人には、新譜並みのフル・プライスでこの『1』を買うよりは、もうちょっと頑張って『赤盤』・『青盤』を購入することをお薦めする。前述の『赤盤』にあって『1』にないバラード系の曲の数々や、特に中期以後の「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」や「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」、「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」、「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」など『青盤』には収録されているがこの『1』では聴けない名曲の数々を聴けば、そうお薦めする意味は納得してもらえるだろうと思う。(ちなみに、ビートルズをリアルタイムで体験してはいない私がビートルズを好きになったきっかけは、家にあった『赤盤』のLPだった。)