2002年作品。活動は1970年代初頭からという、日本の女性シンガーソングライターの草分け的存在の一人。
ファンク・ソウル・ゴスペル等を基調にした自作曲詞能力の高さと、圧倒的な歌唱力は後進のミュージシャンに大きな影響を
与えている。2000年代に彼女単独名義では3枚の作品をリリースしているが、個人的に最も好きなのが今作である。
彼女の場合、個性的な言葉遣いが大変特徴的であり(「残骸」を「くず」、「音楽」を「しらべ」と読む)、題材にするテーマも恋愛
に留まることなく、鋭い社会観察眼に基づいた現代の世相、孤独感等を絶妙な言葉で表現する。本作に収められた10曲に
て歌われる言葉も様々なテーマに基づいたもので、いつの時代に聴いても説得力を失わないところが凄い。
まずホーン・セクションが炸裂するミディアム・ファンク「Temptation」が最高に格好良い。ボーカルは熱さを持ちながら決し
て余裕を失うことなく、人が欲望に群がる姿と、同時に感じる孤独感・空しさを鋭く問いかける。
刺激的なロック・ファンク「Stinkbug」では、匿名で書き込みができるインターネット社会の無責任性を「名前も顔も無いから神
経(こころ)はザラザラ」、政治家と庶民との心理の隔たりを「明日記憶の無い政治家が声を荒げても 巷の仕事には響かない
願いはバラバラ」と痛烈に切り込む。一方で「Acknowledge」は、人の恨み・空しさといった負の感情に覆われた日常風景(「
週明けの駅」「公園の午後」)を物寂しくつぶやく様が聴き手の心に何とも言えない余韻を残す秀曲だ。
彼女の脂の乗った歌唱も聴き逃せない。音楽の喜びを歌ったゴスペル調の「音楽の言葉」のクライマックスへ向かう高揚感や
、ラストの「星の夜」終盤の圧倒的なゴスペル・コーラスは聴く者に清らかな感動を与えてくれるはずだ。
余りメディアに露出されないので若い方には馴染みが薄い人かもしれないが、是非一度聴いてみてほしい名盤だ。