八木美知依の名前を初めて知ったのは、コクーというハイブリッドな和楽器トリオ(箏×2,尺八×1)のメンバーとしてだったが、それから5年、彼女はゆっくりとその活動領域を拡げつつ、確実に進化(深化)してきた。自己名義としては3作目で、全てオリジナル曲で固めた本作は、その彼女の集大成とでもいうべき傑作である。
本作全編で用いられている十七弦箏とは、従来は十三弦であった箏の低音部を強化するために1921年宮城道雄によって考案された、ということを本作プロデューサーでもあるマーク・ラパポート氏の解説で初めて知った。
スティックで弦を叩きながら片方でスライドさせるアクロバティックな演奏ぶりの「Rouge」、マーク・ドレッサーに捧げられた即興曲のダイナミクス、どこか郷愁を感じさせるメロディーを持つ「The Bicycle Ride」、余韻を持った音響が得も言われぬハーモニを奏でる「Topaz」、映画『冒険者たち』のジョアンナ・シムカスへのオマージュである美しいラスト・ナンバーまで表情豊かな演奏が並んでいる。それは、単一の墨色が内に百の彩りを抱えている様を思わせる。
八木はこの作品において、箏という楽器の時空の拡がりだけでなく、未来への新たな扉を開いたと言えるのではなかろうか。