大掛かりな仕掛けなど皆無の中慎み深く紡がれる歌と音に、こんなにも心打たれる。ライ・クーダーの自己名義では3年ぶりと
なる新作は、時代に風化しない真の音楽の力が宿る名作ではないだろうか。
収められた14曲は全てライの自作。音創りは現在主流の打ち込み・電子楽器を横目で見ながら、あくまで我が道を往く様に生
楽器主体でアナログ色強い内容。ギターから鍵盤楽器・マリンバまで多数の楽器で活躍のライを軸に、少人数だが演奏達者な
ミュージシャン達が集結。じっくり練られ録り貯めた風情の演奏からは温かみが感じられ、とても贅沢な時が流れる。それら豊潤
な音の響きとざらついた質感、香りまでを零さず媒体へ封じ込めた録音技術も見事だ。
ここまで商売っ気の無い地味な、だが良質な作品を商品として推せるのは、流石はベテランが多く在籍するレーベルの良心・ノ
ンサッチ。濃いノスタルジー漂うブックレットを始め、全体に手作り感溢れるパッケージデザインも良く出来ている。
平易な単語で綴られた14曲の言葉からは、シンプルな装いながらライの現在の姿勢が明確に伝わる。それは時代の政治・宗教
的背景から離れないながらも一定の距離を保ち、あくまで個人の中に流れる感情の機微を伝えようとするものだと思う。
詩の内容は決してHappy-Go-Lucky的なものではなく、常に何処か苦みと痛みを伴う。例えば、自らの意思とは無関係に侵食され
る環境変化への複雑な想い(「No Hard Feelings」)や、妻に逃げられた男の姿(「Simple Tools」)等々。しかしライの書く詩は単な
る悲観に終わらず、失ったものを胸に抱きながら自らの道を前進する人々の姿を描く。それらの物語を静かに、だが切々と伝える
彼の歌・語りの魅力はまさしくタイムレスであり、私が老境に入った後に本盤に接しても感動を覚えるに違いない。
個人的には、ブルージーなギターの音に併せ、従軍した息子へのやりきれなさを噛み締める父親の孤独な心情をぽそり、ぽそり
…と味ある声で弾き語る「Baby Joined the Army」が堪らなく染みる。
創り手の誠実さがぎゅっと濃縮された素晴らしい音楽、それこそ何十年単位という長い付き合いになってくれそうな予感が。