初期のシンフォニックでプログレ然としたスタイルから、一転してジャズポップとでも呼べる独特の世界を作り上げた金字塔的な一枚。躍動感溢れるシンコペーションのリズムに乗ってベースラインが駆け巡る冒頭『Airborn』から、激しいビートの下、星空に向ってコーラスが高らかに歌い上げる『North Star』に至るまで、マイク・オールドフィールドのジャズへのアプローチが見事に実を結んでいる。それまでのマイクの作品は、一つのモチーフが巧妙に形を変えながらクライマックスに到達する、いわばクラシック音楽のような造りをしていたのに対し、このアルバムでは、ラグタイム風のリズムが『Charleston』のシンコペーションに受け継がれるように、むしろリズムの方に統一感が保たれている。その分、マイクのギターのフレーズは何時になく奔放で力強く、ある時期彼が陥ったという精神的苦悩を一気に払拭するような開放感に溢れている。もちろん、ジャズのリズムはロックのビートともすんなり融合し、彼特有のフレージングを存分に活かしながらも、ジャズでありロックであり最高のポップチューンでもあるという、マイク・オールドフィールドの音楽的教養を存分に堪能できる一枚になっている。
識者の話によると、残念ながらこのアルバムの6曲目にクレジットされている『Sally』は、本当は『Into Wonderland』という曲名が正しく、ヴァージンが何故かセカンドプレス以降その曲に差し替え、しかも曲名の印刷を現在に至るまで初期のプレスのまま全く変更しなかった(!)曰くつきの一枚だという。本当の『Sally』の中では『Platinum』や『Punkaddidle』のメロディが現れ、十分に盛り上がったところで『Punkadiddle』になだれ込むので、本当はアルバム全体でトータルな造りになっていたのだそうな・・。
言われてみれば確かに、一曲目から四曲目まで(LPレコードでいうA面)の繋がりが、五曲目以降(まるでCDのボーナストラックでもあるかのように)寸断された印象は否めない。しかし、それでも(×「Sally」)→『Into Wonderland』のジャズ風の曲調といい、『Punkaddidle』のベース(リズム)がふいにストライド奏法を思わせるところといい、最後はご丁寧にガーシュインの名曲『I Got Rhythm』で締めくくることなど見ても、やはり、このアルバムは、マイクのジャズ音楽への自分流の解釈を存分に展開した作品であることに違いはない。ちょっとアンビエント風な『Woodhenge』の重々しいリズムが何気なく『Incantations』のリズムを刻んでいることにハッとしたり、『Punkadiddle』の歓声に『EXPOSED』を想起してその時期のマイク・オールドフィールドの志向や方向性をトータルに感じてみるのも面白いだろう。
あまりにも豊穣で、その分多大な重荷を当の本人に与えた初期の三部作から、『Incantations』の試行錯誤を経て、マイクは内なる世界から外の世界へ飛び出そうとしたのかも知れない。ケルトの血はそのままに、一度英国ではなく米国を見てみよう。視界は良好、自分を遮るものは何もない。マイクの美しく伸びやかなギターが夜空に映える『North Star』を聴いていると、そんな決意とも自信とも取れる高揚感に包まれとても幸福な気分になれる。『Platinum』は、若きマイク・オールドフィールドの記念碑的な傑作として聴かれ、語り継がれて欲しい一枚だ。