1958年作品。男性ボーカル作品の枠に留まらず、ポピュラー音楽の歴史の中でも金字塔の一枚。
フランク・シナトラの最盛期はファンの間でも意見が分かれるが、一般的には1950年代のキャピトル・レーベル在籍時代と言わ
れており、確かにこの時期に発表された作品群には名作が多い。それらはアップテンポ仕様の「スイング・アルバム」とスロー仕
様の「バラード・アルバム」に大別できるが、本作は後者であり、彼の最盛期に複数作られた名バラード集の中でもさらに頭一つ
抜けた完成度を誇り、ジャンルを問わず後のアーティスト達に与えた影響も計り知れない傑作である。
シナトラは今でこそ伝説扱いされているが、そんな彼も若い頃の人気時代を過ぎ、次のステップに上がるまでに相当苦しんだ時
期があった様だ。プライベートでの恋愛の方も、数多くの女優と結ばれ別れるといったことを繰り返していた様で、後年の政治分
野との結びつきも相まって、彼が駆け抜けた人生は普通の人の何倍も浮き沈みのある劇的なものであったのは確かだ。
シナトラが歌手として素晴らしいのは、たとえ普通のスタンダードでも、彼自身の人生経験に引きつけて、言葉にリアルな感情を
込めて歌う力量があること。彼の重厚な声にはどこか陰影があり、特にバラードを歌わせた時の説得力において彼の右に出るも
のはいない。自分は彼のような劇的な人生を歩んでいるわけではないが、彼の哀愁溢れる声で繰り出される言葉に込められた
感情には不思議と共感出来るものを感じ、時に恍惚とし、涙するのだ。
音楽自体の方はオーケストラ伴奏主体だが、シナトラが組んだ数多のアレンジャーの中でも最高の相性だったネルソン・リドルに
よる繊細なアレンジが実に素晴らしい。決して主役のシナトラの歌を遮ること無くぴったりと寄り添い、劇的な部分はしっかりと彼
の援護射撃を行う押し引きのさじ加減が絶妙だ。「ウィロー・ウィープ・フォア・ミー」の淡々とした中の美しさ、「スリープ・ウォーム
」での繊細なハープ・管楽器のうっとりするような温かい音色のアレンジ等は、リドルにしか成し得無いまさに偉業だろう。
出来るなら、休日等気持ちのゆったりした夜に、本作収録の珠玉のバラードに静かに耳を傾けて欲しい。あなたにとって一生の宝
物になるかもしれない。