ドラムン・ベース・シーンでは(特にダーク・コア・シーン)、最早重鎮といってもいい
kryptic minds&leon switchのうちのkryptic mindsが単独名義で
フル・ダブ・ステップ・アルバムをリリースした(英国リリース2009年9月28日)。
但し、ラスト・トラックのみダブ・ステップではなくダウン・テンポ・ロウ・ビート。
その萌芽は既にあった。
ドラムン・ベース・アルバムとして3作目にあたる「lost all faith」のOP曲である
「minor nine」が完璧なハーフ・ステップだったのだから。
最近のダブ・ステップ界の流行は敢えて言うと、テクノやエレクトロ風味の、いささか
あっさりとした物か、もしくはLFOベースが炸裂する下品な物が多かったように思う。
そんな中でこれは決定的に異質である。そして極めて孤高である。
スローでダーク、不穏でありながら、録音環境が良いのか非常にアンビエンスが広く
音質面でも特筆に値する。高級オーディオ・セットで聞いても、その音の良さが実感出来るだろう。
鉛を少しづつ、体内のどこかに滞留されていくような不穏な感じ。
不穏でありながら、しかし、何か落ち着いてその残留を身体が受け入れているような。
怪しく不健康で、怨念や悪意が充満する部屋でのBGM。
ジャケット・スリーヴに描かれているイメージそのままの音、と言っていいだろう。
アンビエンスが広い為、箱でのダンス機能は無論あるが、これだけスロー・テンポだと
ヘッズはただ頭を揺らし続けるしかないのではないか。
まるでゾンビ達が街中でうろついているように。
つまり、アンビエント音楽としての機能が十分あるという事なのだ。
しかるべきモード・ショップでBGMとして利用されても不思議はない。
実際、アンビエント音楽ファンにもお勧めしたいほどだ。但し、ダーク・アンビエント・ファンへ。
時折、アラビア音階が挿入されて不穏感は更に倍増されていく。
淡々とOPからEDまで、ほぼ同じようなスロー・テンポで続くので、ダブ・ステップの
猥雑でジャンプ・アップな感じを好む人には受け入れられないだろう、と推測するが、
間違いなくこれはある種のダブ・ステップの完成型である。
ダークで不穏な音楽は数多くあるが、この圧倒的な音の粘着性の気持ち良さは
他に聞いた事が無い。ドラムン・ベース時代に培った邪悪なイメージのSE効果音と
ダブ・ステップがこうも相性が良いとは気が付かなかった。
何はともあれ8曲目「secure lost」のメランコリック且つダークな、このアトモスフィアを
体感して欲しい。このトラックが持つある種のサウンドトラック効果とでも言おうか、
雨の日に聞いたら間違いなく何かの映像の中に自分が存在するような
錯覚を覚える。you tubeでも試聴可能。
魔王burialが確立した都市の疾走音楽としてのダブ・ステップの対極にある
もう一つの完成型。
2009年、これは本年の今のところベスト・アルバムと断言したい。
とはいうものの、音楽雑誌でも取り上げていたのは、何と「music magazine」のみ。
殆どネット上、それもダブ・ステップ関連のサイトでしか話題になっていない。
これだけのアルバムなのだから、もう少し話題になってもいいと思うのだが。
個人的にはこんな凄いアルバムは、もう魔王burialがリリースしない限り聞けないだろう、
とさえ思っている。
惜しいのはこのアルバム・リリース前後に12”アナログでリリースされている、いくつかの
シングルが収められていない事。
「life continuum」や「badman」「768」「code46」などのトラックだ。
それらのシングルが猛烈に格好いいのだ。
またmarry annne hobbsによるアルバム・プレヴュー・ミックス(12分にも及ぶ)が
これまた格好いい。これはmyspaceで試聴可能だが上記シングルと併せて
CD化を熱望する。
最早、大絶賛したいアルバムではある。
you tubeではアルバムの収録曲8曲とアルバム未収録曲4曲がフル・レングスで試聴出来るので
是非、聞いてもらいたい。
また、myspaceで未収録トラックばかり集めたtrain wrench mixなる1時間にも及ぶ
ノンストップ・ミックスが聞ける。これが素晴らしい完成度なのだ。
殆ど未収録というか未発表トラックばかりのミックスなのだが、全てクオリティが高く、勿論
繋ぎも完璧なミックス。殆どニュー・アルバムと言っていいほどのクオリティなのだ。
全編、スローでダーク、淡々としたリズムの渦の中に埋没してしまいそうな不健康さと
不穏さが充満している。ダウンロードして、こればかり聞いている。
これも是非、CD化してもらいたい。
こんなミックスならば1日中でもエンドレスで聞き続けたい、猛烈な格好良さ。
色々なクラブ系ノン・ストップ・ミックスは聞いた事があるが、これほどのミックスは聞いた事がない。
kryptic minds、本物の筋金入りのダーク・コア・ステッパ。傑作。
すべてのダブ・ヘッズ達へ。最良の最高のプレゼント。
「追記」2010年3月3日
ダブステップ界隈では最強のサイト「dubstepforum」のベストアルバム部門で本アルバムが2位に
選出された。因みに1位は「5years of hyperdub」。ベストプロデユーサー部門では
4位に選出。本家英国では正確に評価されているという事だろう。