作品毎に変り続けた30年間のASKAの音楽性は非常に面白みがあり、売れ筋音楽を狙いに行かないのも彼の魅力の一つ。またそんな作品でこそ多彩な才能を感じさせます。今作はそんなアーティストのしなやかなPOPSセンスが際立った作品です。C&A「天気予報の恋人」のような柔らかさを持った曲が多く、例えば良質なPOPSを作る冨田ラボや槇原敬之、いやむしろ矢野顕子作品のサウンドのクールさとうたのユニークさ等と比べたくなる、素敵な音楽があります。作品全体に渡るうたの自由度やナチュラルさが心地よい追い風を作り出し、売れるためにメロディメイクされたキャッチさではなく、日常に息づいていくメロディとしてのキャッチさが散りばめられています。
例えばそれはミディアムロック「ブラックマーケット」におけることばのテンポの軽快さや、ドゥ・ワップとランデブーしてゆく「バーガーショップで逢いましょう」でキュートに跳ねてゆく旋律。一方「風の引力」や「草原にソファを置いて」などふわりと風がもぐりこんでくるようなAIR感も今作の顔です。他方「帰宅」や「君が家に帰ったときに」など落ち着きの中に情感をしみじみ忍ばせ、同時に映像をありありとみせる曲があるのは作品の懐の広さでしょう。前者は控えめなストリングスに乗せた作者が伝えんとする色や、場面のささやかさが素晴らしいですね。後者は何といってもねこの登場がたまりません。
これらのうたではASKAの声も淡い表情が特徴的で、まるで歌声が風になったように浮き上がる高揚とよく出会いました。霧がかかったようなウイスパー声は爽やかな風にも、湿気を充満させた夏の朝の空気のようにも感じられます。
一方ロックの重さを感じる「共謀者」でのシャウトや、固い肌触りで異質なシングル曲「ID」での緊張感ある歌声は、作品をただの気持ちよさに終らすことなく、深みや重石のように存在感ある演奏を楽しめました。
尚Paul Wickensとは89年からのPaul McCartneyバンドのキーボーディスト。Paul Staveley O'Duffyは Swing Out Sisterのプロデューサー(バンドは「ブレイクアウト」で88年グラミー2部門にノミネート)。他にもThe Pretenders, Lisa Stansfield, Culture Club 等を担当。CHRIS PORTERはDavid Bowie, Diana Ross, Boyzone, Take That, Gary Barlow, Elton John, Pet Shop Boys, Tina Turnerをプロデュース。特にGeorge Michaelの大ヒット "Careless Whisper" 、"Freedom"が有名。