フェデリコ・フェリーニの映画『8 1/2』をもとにしたミュージカル。40歳の映画監督グイード・コンティーニと彼をとり巻く女たちの物語である。
このリバイバル版の魅力は、登場人物がぶつかりあってできたようなエネルギーで、決して悪くない82年の初演版が物足りなく感じるほどだ。
オープニング “Overture delle Donne” などの女たちのコーラスがよい例。均整がとれているのは初演版だが、リバイバル版には喧しいくらいの生気がある。また、キャストの声は初演より全体的に若くなった感じだ。
第一に、グイードを演じるアントニオ・バンデラスの温かみのある甘い声が魅力的だ。
彼が、妻のルイーザ、愛人のカルラ、女優のクラウディア、それぞれに「君さえいれば…」と真剣に愛を訴えるバラード “Only With You” は、その魅力がたっぷり詰まっている。初演の渋いラウル・ジュリアとは違う魅力のグイードである。
それから、女優陣の対比も鮮やか。
妻ルイーザ役のメアリー・スチュアート・マスターソンはやや低めの声で、分別ある大人の女という感じ。愛人カルラを演じるジェーン・クラコフスキーはチャーミングで妖艶。女優クラウディアのラウラ・ベナンティは、端正な美しさのあるソプラノだ。
出色はカルラのジェーン・クラコフスキー。
彼女がグイードに迫るジャジーなナンバー “A Call from the Vatican” は圧巻。息づかい、リズムがオーケストラとうまく絡み合って、最高潮まで盛り上げてから、聞き手をノックアウトする長い高音―緊張が途切れない。
残念なのは、グイードが9歳の時の苦い記憶を歌う “The Bells of St.Sebastian”。
初演版ラウル・ジュリアの ‘Kyrie Eleison’(主よ哀れみ給え)と叫ぶように歌う声が、女声コーラスの上に浮かびあがる、あの美しさと迫力は忘れ難い。リバイバル版ではこの部分をグイードが歌わず、女声コーラスのみで、荘厳さが薄れた感がある。また、オーケストラも初演のほうが、全体的に重厚感があり美しかった。
ともあれ、キャストの魅力とエネルギーは、そのような点を充分補っているだろう。初めて『Nine』を聞くのならこのCDが良いかもしれない。