ビル・エヴァンスを知的でリリカルなピアニストと決めつけると火傷する。クールで狂気(凶器)を秘めたピアニスト。自己の中にアンビバレントな感性を抱えて、生涯にわたって揺れながら戦い抜いたピアニスト。それがエヴァンスなのだ。そしてこのデビューリーダーアルバムにはその片鱗が聴かれる。1956年というとんでもない日付に思わず間違いではないのだろうかとデーターを疑いたくなる。ようやくイースト・コーストの黒人たちがジャズの主導権を奪い返した時期に何という斬新なピアノ・トリオがあったものだ。少し後のジャズテットのバックを務めていた演奏と比較しても、その革新性は驚くほど異なっている。I Love You 、Easy Living といったスタンダードでさえ、とんがったアッタックやありきたりでないハーモニーを伴ったコンピング、斬新なフレーズが現れる右手のシングルトーン。モード奏法のモの字も全く登場する以前にエヴァンスは後のマイルス6重奏団のバックグラウンドの実験をしているようにさえ感じられる。もちろんここでのベースとドラムスはオーソドックスなピアノトリオに徹しているが、モチアンは結構頑張っているし、ベースもエヴァンスのアレンジをしっかり守りながらリズムの変化に対応している。そして、何よりもこのアルバムの見せ場は、のちの名演、Waltz For Debbyをソロピアノながら聴かせている点にある。絵画でも、美術大学の卒業制作にその作家の全てが凝縮されている、という言い方をすることがあるが、このデビュー作には後のアグレッシブなエヴァンスのエッセンスがすでに凝縮されている。